↑ 崩壊後の北岳バットレス第四尾根,無事攀じりきりました。
2012年夏山個人山行報告書
日本大学山岳部
山域 | 南アルプス 北岳バットレス |
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期間 | 平成24年9月10日(月)~12日(水) |
メンバー | 3年 関洸哉、横山裕 2年 山浦祥吾 1年 須郷直也 |
行動
9月10日(月) 偵察 晴れ後曇り
白根御池小屋BC09:10~09:25二俣~09:56バットレス沢出合~11:10bガリー大滝下部~12:00バットレス沢出合~12:40二俣~13:05BC
北岳山荘から白根御池小屋に到着する。賀来の下山を山浦に任せて、関と横山で偵察に向かう。二俣から10分くらいでロープが張られた沢が出てくる。それを越えて20分ほど進むとバットレス沢の目印である大岩が右手に現れる。登山者が入り込まないように×印の描かれた岩がいくつもある。これを越えた沢がc沢、さらに奥がd沢となっている。下部岩壁へつながる踏み跡は、バットレス沢とc沢の間の尾根を上っている。バットレス沢を詰めるより、踏み跡を登った方が楽という情報があったので踏み跡を行く。木の根っこや枝を掴みながら登り、藪を抜けると少し開けた場所に着く。目の前に岩があり、上×、左○といった絵が描かれている。私たちはそれに従い左に進んだのだが、これが間違いであった。その道はc沢に繋がっており、ガレていてとても進みにくい。bガリー大滝に向かうため、バットレス沢の方にトラバースするが、傾斜もあり非常に緊張を強いられた。やっとの思いで間の尾根に着くと、踏み跡も現れ、bガリー大滝も確認できた。踏み跡が現れたことで私と横山は心底ほっとした。下部の写真を撮り、下降を開始する。バットレス沢を下れるのではないかと思い進むと、案の定出合まで簡単に下りることが出来た。下っている途中に先程の絵の描かれた岩があり、あの時上に進んでいればと後悔した。BCに戻り、須郷のビレイの方法や一連の流れを復習した。
9月11日(火) 停滞 晴後雨時々雷
白根御池小屋BCにて停滞
午後から天気が崩れる予報のため停滞を決める。昼過ぎから小雨が降り始めた。
9月12日(水) 晴後曇り
BC03:00~03:20二俣03:30~04:20バットレス沢04:30~05:10bガリー大滝下部05:50~07:45bガリー大滝登攀終了07:55~横断バンド~08:05ヒドンスラブ08:30~09:00第4尾根取り付き~10:50マッチ箱~12:50登攀終了点~13:25北岳13:40~14:40BC15:15~16:20広河原
取り付きに到着すると日が昇り始め暖かくなる。今回崩壊後ということもあり、対応できるようにカム、ナッツを持ってきたため、横山、山浦の体は登攀具で覆われベテランのクライマーといった格好になっている。横断バンドで靴を履き直すのは面倒なので、下部岩壁は登山靴で登攀することにする。
下部岩壁(bガリー大滝)
1P目:45m(横山-須郷、山浦-関) ※太文字はリードした者
階段状のクラックを抜けて、草付きの岩を右に上がる。クラックは易しいが、草付きはランニングを取れるところがなく、岩も脆く少しいやらしい。このピッチは、木を支点に使った。
2P目:10m(横山-須郷、関-山浦)
10mくらい登ると前方に5m程の岩壁が現れる。左にも踏み跡があり、横山が踏み跡を偵察するが、進めないようである。ここで一度区切り、セカンドを引き上げる。偵察により、この場所で随分タイムロスしてしまった。
3P目:40m(横山-須郷、山浦-関)
岩壁は出口を慎重にいけば問題はなく、この岩を抜けると緩傾斜帯になり踏み跡が出てくる。ハイマツを支点に利用できる。
ロープを束ねて4尾根取り付きに向かう横断バンドを行く。3P目の終了点から踏み跡を辿り左上する。最初は少しわかりにくい踏み跡だが結構しっかりしている。bガリー、2尾根を横断し、cガリーに辿り着く。cガリーを見上げると所どころ岩には、”4オネ↑”というように赤字で印が描かれているので素直に従って、cガリーを詰めていくと”4”とわかりやすく赤文字で書かれた場所に着く。
ヒドンスラブ:35m(横山-須郷、山浦-関)
”4”と書かれた岩の左手に構えるヒドンスラブを行く。ここからフラットソールに履き替え、登攀準備をする。苔があるので多少滑りやすくなっているのだが、足場はしっかりしており、ランニングも取りやすい易しいスラブである。スラブを越えて20mくらい進むと4尾根の取り付きに到着する。この取り付き地点は、ビバークできそうな広さがある。
第4尾根
1P目:30m Ⅳ+(横山-須郷、関-山浦)
コーナークラックからハイマツのフェイスへ。出だしクラックの岩質はつるつると滑る岩である。慣れないハンドジャム・フットジャムといった感じで、クラックに手足を入れ込みながら登る。ここは、クラック右側からも抜けることができる。天気も良く気持ちよく登る。
2P目:40m Ⅲ(横山-須郷、山浦-関)
ピラミッドフェースを間近に階段状の岩を登る。ピラミッドフェースを右に巻いた所で切る。左に寄りすぎず、右側をトラバースするため、ロープの流れに注意して進む。
3P目:45m Ⅲ(横山-須郷、関-山浦)
cガリー側に回り込み、白い岩のフェイスを登る。第一のコルを越えて垂壁手前の第二のコルまでロープを一杯に伸ばす。この辺りから晴れ間はなくなりガスに覆われてしまう。
4P目:30m Ⅴ-(横山-須郷、山浦-関)
核心の垂壁は5mくらいの岩で、下半分スラブで上半分は垂壁といった感じである。横山、山浦は危なげなく登り、須郷も少し手こずっていたが問題なく登れていた。スラブは小さなスタンスはあるので、慎重に足を置いていけば滑ることなく立つことが出来る。少しずつ体を上げ垂壁上部のホールドを掴めれば、スタンスはツルツルしているが越えることが出来る。垂壁中央のクラック箇所に多数打ち込まれたハーケンがあるので、そこでランニングがとれる。垂壁を越え、やせたリッジを進んで行くと懸垂下降点に着く。
5P目:10m 懸垂下降
懸垂地点から左側に下りる。先に懸垂地点に到着した横山が準備をして最初に下降する。あとは須郷、山浦、関の順で下降する。懸垂支点箇所は狭い。また4ピッチ目終了点から懸垂支点へは二手程岩を登らなければならないので、懸垂支点からスリングを垂らして後続にセルフを取らせるようにした。
6P目:45m Ⅳ(横山-須郷、山浦-関)
マッチ箱とフェースの間の深いクラックからフェースに入り、そこからリッジに出る。スタンスは小さく、角度が少し急なため慎重に登る。枯れ木テラスの手前でピッチを切る。
7P目:20m(横山-須郷、関-山浦)
崩壊箇所の通過である。枯れ木テラスからリッジの部分が綺麗に無くなってしまっている。トラバースして城塞ハングのチムニーの取り付き点に行く。トラバース部分は細いリッジになっており、八ツ峰Ⅵ峰のCフェース(剣陵会)のリッジに似ている。途中切れ落ちている所もあり、ちょっと怖い。砕けた岩も散在しており、また崩れてもおかしくないように感じる。ビレイ点は広いスラブ状にある。ここから終了点に行くルートは城塞ハングの右のチムニーと左の前傾壁の二通りのラインがある。もしくは城塞ハングを左に巻いてハイマツ帯を越えることが出来るらしい。
8P目:20m Ⅳ+~Ⅴ-,A1(横山-須郷、山浦-関)
チムニーは見た目からいやらしそうである。須郷が心配であったが、何事も無かったように登っていた。後で聞けば怖かったらしい。私も気を引き締めて登る。ここは”Ⅳ+、A1”となっている箇所であり、チムニー中央にスリングが垂れ下がっていた。岩もかぶり気味で、ホールドとスタンスも乏しい。前情報では、アブミを使用したというものもあったが、アブミ・スリング共に使うこと無く登ることができた。体を入れ込んで上がる。横山は、体を入れ過ぎると傾斜も強くなり、ザックもひっかかるので、体を入れ過ぎないように外に投げ出すような感覚で登ったとも言っていた。チムニーを抜けるとハイマツ帯があり、そこのハイマツで支点をとった。このように、木やハイマツなどの自然物でどのように支点を取るかなどを考えて登ることはアルパインクライミングの楽しいところである、と感じた。チムニーを越えたらすぐに小さなテラスがある。ここがこのルートの核心だなとメンバー間で一致した。
そこから3分くらい歩いて終了点となる広いテラスに着く。登山靴に履き替え北岳山頂を目指す。踏み跡を辿り稜線のルートと合流する。終了地点に着いた時点でハーネス、ガチャ類をはずせるが、バットレスを登攀してきた達成感を頂上で味わうため、装着したまま頂上に立つ。ガスに覆われた誰もいない頂上で写真を撮る。皆充実感たっぷりの顔であった。BCに戻り、素早くテントを撤収して下山する。須郷は大分疲労が溜まっていたようで大変辛そうであった。16時20分に広河原に到着し、30分発の甲府駅行最終バスに乗り込んだ。
総括
バットレスの崩壊後、行けるのかどうかから始まった計画であるが、無事に登攀することが出来て何よりであった。2隊で動いたため時間もかかったが、他のパーティーがいなかったため気持ちよく登ることが出来た。3000m峰の北岳に突き上げるクライミングは心地好く、達成感も大きかった。しかし登攀準備、登攀スピードなどに課題もあり、今後安全に楽しくクライミングするには、それら登攀技術を向上させる必要があると感じた。今回得たものと課題を糧にして、これからの山行に繋げていきたい。
(報告 関洸哉、横山裕)