3月20日 最終ピークの大無間山2329mに到着する。
後列左から:高橋(2年)、水越(4年)、前列左から:福島(1年)、新保(1年)
2016年度 春山合宿報告書
日本大学山岳部
目的 | 積雪期の長期縦走経験を積む |
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山域 | 南アルプス (戸台~仙丈~三峰~塩見~荒川~赤石~聖~光~大無間~田代) |
日程 | 平成29年3月2日(木)~3月21日(火) 移動1日、実働16日、停滞3日 |
メンバー | 4年 CL水越健輔 2年 高橋佑太 1年 新保裕也、福島端流 計4名 |
3月2日(木)移動日
新宿16:35(高速バス)~20:05伊那市(タクシー)~21:10戸台
出発の数日前に当初参加予定であった2年生の國谷がノロウイルスにかかったため、不参加となる。無念、実に無念である。4名という少人数で新宿を出発。戸台の駐車場にテントを張って就寝する。戸台にはうっすらと雪が積もっている。
3月3日(金)入山日 晴れ −2℃
戸台06:00~10:05八丁坂~14:15北沢峠CS1
いよいよ長い山旅が始まった。最初の河原歩きは単調だが、凍結している箇所が多いため転倒に注意しながら進んでいく。何度かの渡渉を経て八丁坂に到着し、八丁坂からはツボ足のラッセルとなる。大平山荘から近道を使おうとして、少し迷ったが問題なく北沢峠に到着した。北沢峠の積雪は1mほど。40㎏近い荷物ながらも、良いペースで北沢峠に到着することができた。
3月4日(土)晴れ −8℃
北沢峠CS105:33~10:00大滝ノ頭~12:30小仙丈ケ岳~14:40仙丈小屋CS2
大滝ノ頭まで膝下のラッセルをこなしていく。森林限界を迎え、小仙丈ケ岳の登りになると雪面がクラストし、小仙丈ケ岳を越えるとツボ足のラッセルとなった。予定では仙丈ケ岳を越えて苳ノ平までの予定であったが、とても今日はたどり着けないため、仙丈の冬期小屋に泊まる。仙丈小屋周辺の積雪は1mに満たない程度で岩が見えている箇所もある。
仙丈小屋は雪崩があるのではないかと心配していたが杞憂だった。しかし、夜中に大仙丈沢カールのほうから雪崩や落石の音が聞こえ不気味であった。本日の行動、北沢峠から仙丈小屋までは、標高で1000m近く上がり天幕するため高山病には細心の注意を払いたい。
3月5日(日)晴れ −8℃
仙丈小屋CS205:55~06:45仙丈ケ岳~07:40大仙丈ケ岳~12:30高望池CS3
今縦走最初のピーク仙丈ケ岳頂上からは、これから歩む道のりが遥か先まで続いており、決意を新たに固め仙塩尾根へと入っていく。仙丈ケ岳頂上から一段下って、さらに下る箇所がやせ尾根でやや危ない。大仙丈ケ岳からの下りの夏道は、微妙に積雪があり危ないため、左側の雪がしっかりついた斜面を70mほどクライムダウンする。天気も良くテントでゆっくり休みたい衝動に駆られたため、少し早いが高望池にて天幕する。ゆっくり確実に進んでいこうじゃないか。高望池の積雪は約70cm。
3月6日(月)くもり後雪 −6℃
高望池CS305:55~09:15横川岳~10:20野呂川越~14:20Peak2699m下CS4
樹林帯のなか膝下のラッセルをこなしていくが、モナカ雪で苦労した。Peak2571付近の尾根では地面が見えていたが、仙塩尾根上はおおむね膝下のラッセルを長い間強いられる。予定通りPeak2699m下に到着し、天幕を設営する。テント場周辺の積雪は約50cm。今日は昼前から雪が降り始め、厳冬期のような寒さのなかの行動であった。
3月7日(火)停滞 晴れ後雪 −13℃
午後から大荒れの天候が予想されたため停滞とするが、午前中はよく晴れており動けたのではないかと悶々とする。昼頃からは雪が降り始めたが、そこまで悪天ではなかった。しかしながら、昨晩から非常に寒い気温が続いている。
3月8日(水)くもり時々雪 −14℃
Peak2699m下CS405:25~10:20三峰岳~14:00安部荒倉岳~15:15Peak2658mCS5
小雪の舞う中を出発する。三峰岳前の夏にクサリがあった箇所で10mほどロープを出す。そこからしばらくのクラストした斜面を40mほどFIXする。思っていた以上にクラストしており、アイゼンも前爪しか入らない。そのうえ軽い吹雪のなかの行動のため高橋、新保、福島は辛そうであった。三峰岳からは特に苦労せずに進んでいき、安部荒倉岳を過ぎた先のPeak2658m 付近に天幕する。テント場付近の積雪は約60cm。1日中風にさらされ、3人は疲れた様だが凍傷者が出ずによかった。
3月9日(木)くもり後雪 −8℃
Peak2658mCS505:25~07:10新蛇抜山~12:15塩見岳~15:30塩見小屋過ぎCS6
快調に新蛇抜山、北荒川岳と越えていく。北股岳分岐前はガレの縁で、なおかつクラストしているため確実なアイゼンワークが求められる。塩見岳頂上にはガスがかかっているが、時折その見事な山容が顔を出すと登高意欲を掻き立てられる。頂上に到着する頃には雪が降り始め、雪の中下降を開始する。2ピッチ、合計120mほどFIXして下降した。完全に凍った斜面と岩の下降のため、冬季は確実にロープを出さなければならないだろう。支点は岩から取るのがほとんどになるが、スノーバーを埋められる箇所もほんの少しあった。塩見小屋を過ぎて無雪期にはゴーロとなる付近に天幕を設営する。テント場付近の積雪は約40cm。行動時間の長い日が続き、皆疲れが溜まり始めている。
3月10日(金)雪 −9℃
塩見小屋過ぎCS607:00~09:30Peak2512m~11:55本谷山~14:30三伏峠小屋CS7
ホワイトアウトしているなか出発する。視界が利かず誤って権右衛門山の南側の尾根に入ってしまうが、このまま忠実に尾根を下れそうなので、Peak2512mに向けてログをとって進む。本谷山前後では膝ほどのラッセルとなり時間がかかったが、デポをしてある三伏峠小屋に問題なく到着する。三伏峠の積雪は1m以上。三伏峠の冬季小屋内ではデポを食らう獣と化し、久々にお腹いっぱいとなった。
3月11日(土)晴れ −12℃
三伏峠小屋CS706:00~10:20小河内岳~15:40板屋岳~17:15高山裏避難小屋CS8
昨日までの真冬の世界から一転し、雲一つない青空が広がっている。小河内岳まで景色を堪能しながらの稜線歩きとなる。大日影山付近からは腐った雪のラッセルに苦しんだ。さらに三伏峠でのデポが荷物に入ったため、また重いザックとなり想像以上に高山裏避難小屋まで時間がかかってしまった。冬型の気圧配置が続き毎日毎晩寒く、なかなか快眠できない日々が続く。
3月12日(日)晴れ −7℃
高山裏避難小屋CS806:00~15:30荒川前岳~16:50荒川小屋CS9
高山裏避難小屋からルートファインディングのミスをして、藪漕ぎラッセルを強いられる。恐らく夏道よりも上を歩いていたと思われる。この藪漕ぎラッセルには体力と時間を奪われた。カールの斜面は雪質が安定しており雪崩の心配は無さそうだ。しかし、カールの斜面から稜線へ上がる箇所を間違え、早くに稜線上へ上がってしまう。しばらく細い尾根を進むうちに、間違いに気づき途中のルンゼをクライムダウンしてカールに戻る。やっとの思いで荒川前岳頂上に到着し、すぐに荒川小屋に向けて下降を開始する。荒川小屋周辺の積雪は約40cm。今日は後輩に怖い思いをさせてしまい、申し訳なかった。荒川小屋の冬季小屋で猛省する。
3月13日(月)くもり −7℃
荒川小屋CS907:30~08:45大聖寺平~10:30小赤石岳~11:05赤石岳避難小屋CS10
半分休養を兼ねて赤石岳まで進むことにする。小赤石岳前には巨大な雪庇が形成されていた。この雪庇近くのトラバースはクラストしており意外に注意しなければならない。赤石岳避難小屋は非常にきれいであった。冬季小屋には毎度毎度感謝である。赤石岳避難小屋周辺は積雪が浅く、岩がゴロゴロと出ている。
3月14日(火)停滞 くもり 気温不明
行動できる天候ではあるが、皆疲れているので休養とする。全員気力体力とも回復した。
3月15日(水)停滞 雪後くもり 気温不明
4時頃起床し、外へ出ると吹雪のため停滞を決定する。昼過ぎまで小屋内に居ても分かるほど風が強かった。3日間同じ真っ暗な小屋内にいると、さすがに気分も落ち込んできて「耐える」という言葉がぴったりな空気がテント内に漂っている。
3月16日(木)晴れ後くもり −13℃
赤石岳避難小屋CS1005:30~07:30百閒洞山の家~09:05大沢岳~11:45兎岳避難小屋CS11
停滞で溜めたフラストレーションを晴らすかのごとく、快調に大沢岳を越える。特に危険箇所はない。百閒洞下降点は天幕できるスペースは十分あるが、吹きさらしになるため天幕地には適さない。兎岳避難小屋は雪に埋まっており使用できなかった。思っていたよりも早く兎岳避難小屋に到着したため、水越、高橋で軽く先の偵察へ向かう。聖兎のコルからすぐに左上する箇所に1ピッチFIXして14時前に帰幕する。明日の聖岳越えに向けて、大谷監督の差し入れであるカツ丼のフリーズドライを食べて就寝する。今年度の冬合宿、剱岳へのアタック時に食べて成功しているため、縁起が良いような気がするのである。
3月17日(金)晴れ −10℃
兎岳避難小屋CS1106:05~06:40聖兎のコル~10:20聖岳~13:30聖平小屋CS12
聖兎のコルから昨日FIXしておいた箇所を通過する。そこから赤石沢側を2ピッチ計120mFIXしてトラバース気味に稜線上へ上がる。やや急な斜面で所々クラストし、雪のつき方もいやらしい。稜線からは比較的緩やかな斜面となる。Peak2796m過ぎの小カールを上がる箇所はクラストしている時には注意。快晴の頂上で記念写真を撮り、しばらくゆっくりする。小聖岳から先の樹林帯以降で腐った雪のラッセルに少々苦しんだが、余裕を持って聖平小屋に到着することができた。聖平小屋周辺の積雪は1mほど。
3月18日(土)晴れ後くもり −8℃
聖平小屋CS1205:55~11:10茶臼岳~14:05易老岳~17:00光岳小屋CS13
本日は茶臼小屋で天幕予定であるが、あわよくば光岳小屋まで行きたいと思いつつ出発する。上河内岳過ぎの稜線から見る富士山は見事の一言に尽きる。希望峰から易老岳間は天幕できる箇所が多くある。何とか光岳小屋まで行けそうなので、頑張って歩き、暗くなる前に到着することができた。光岳小屋周辺の積雪は50cmほど。光岳小屋内にあるノートには、頭の下がる山行記録、言葉が記されている。機会があれば読んでみると良いだろう。
3月19日(日)晴れ −8℃
光岳小屋CS1306:25~06:45光岳~08:20~百俣沢ノ頭~13:15信濃俣~16:40Peak1874mCS14
光岳頂上を踏んでから、いよいよ最終ピークである大無間山へ向けた道のりに足を踏み入れる。百俣沢ノ頭までは夏に迷ってしまっているため慎重に進み、今回は特に問題なく行けた。この先からやせ尾根が始まるが、積雪はおおむね2,30cm程度。深いところで膝下程度のラッセルといった感じである。また所々地面が見えている箇所もあり、凍結した箇所、深雪、モナカ雪、土が見えた地面などバリエーションに富んでおり歩きづらい。アイゼンとワカンの併用が有効である。Peak2107mから1874m間は特に急でなおかつ凍結した斜面の下降が多く、時間がかかった。皆疲れが溜まっているが、ここまで来たらもう行くしかない。気力で歩き抜く。
3月20日(月)晴れ −3℃
Peak1874mCS1405:30~09:40大根沢山~14:35三方嶺~15:55大無間山CS15
Peak1913mを過ぎて、標高が2000mを下回ってくると尾根上は雪が無い箇所が増えてくる。大根沢山は夏に来たとき同様に長く、急に感じる。特に登り出しが急であるため注意しなければならない。そこを越えると膝下ほどのラッセルが頂上まで続いていく。大根沢山を越えるとまた雪は少なくなり、ラッセルからはほとんど開放された。ここまで全日程において他人のトレースを見ることはなかったが、三方嶺から大無間山までトレースがあり驚いた。ありがたくトレースを頂き遂に大無間山頂上に到着する。大無間山頂上の積雪は約40cm。これほど清々しい気持ちで山の頂上に泊まれるとは、何とも贅沢である。
3月21日(火)下山日 雪後雨 −5℃
大無間山CS1505:30~09:30小無間山~12:50小無間小屋~15:20田代
雪が降りしきるなか出発する。小無間山まで赤布が多く迷うことなく進んでいける。崩落箇所では夏にも使用したトラロープがまだ使えそうであったため、それを使用して通過する。雪がついたため夏ほど危険度は高くない。続く鋸歯の通過はロープを出すほどではないが、痩せ尾根で凍結した箇所も多いため集中して通過していく。小無間小屋に到着すれば、あとはひたすら下るだけである。いつの間にか標高も低くなり雪は雨に変わった。3週間振りにアスファルトの地面を踏むと、諏訪神社はもうすぐそこである。雨か涙かぐしょぐしょに濡れた笑顔で、4人同時に諏訪神社の鳥居をくぐった。ずっと頭に描いていた南アルプスの全域縦走の成功が、遂に現実となった。南アルプスの山々はどっしりと構え、未熟な我々4名を迎え入れ、そして成長させてくれたような気がする。南アルプスに感謝をしつつ、この山旅に終わりを告げる。
総括
2016年度の年間目標を冬合宿での早月尾根から剱岳の登頂、春山合宿での南アルプス全山縦走の2つに据え、2016年度の活動を行ってきた。剱岳での冬合宿は成功し、残すは南アルプスの全山縦走となったが、計画段階において鳳凰三山、甲斐駒ケ岳、白峰三山を除く計画となってしまった。戸台から田代までの縦走でも今の我々にとっては十分高いレベルの計画にはあるが、大きな目標を達成するためにはより具体的な計画性が必要であることを後輩には伝えておきたい。また1年後、2年後を見据えた大きな計画を立てられると素晴らしい。
さて、まずは今回の合宿の反省点であるが、読図とライン取り、この2点の反省が大きい。読図はその名の通り、現在地が把握できていない場面があったため、もう一度鍛え直す必要があるだろう。ライン取りに関しては、遠景からこれから進む先を見て、どのラインで進むのかイメージする大きな意味と、どこを歩けば積雪が浅いのか、また安全なのか近くで観察する小さな意味と二つがあると考えている。この読図のミスとライン取りができていないが故に、余計なラッセルを強いられ時間と体力を削られていた場面が多かった。詰まる所、「考えて」登ることが足りていなかったのではないかと感じる。がむしゃらに頑張って登るだけの合宿と「考えて」登る合宿、同じ合宿でもこの違いが経験値をまるで変えてくるだろう。特に新保、福島はこれを実践していけばまだまだ強くなれる。話は逸れるが、高橋はトップとして危険箇所でルートを工作する力が備わればリーダーとしての資質も開花してくるはずだ。
続いて良かった点として一番に挙げられることは田代まで行くぞという熱意や情熱が全員にあったことである。つらかったり、怖かったり、下界が恋しくなったりネガティブな感情に襲われることも多くあったことと思うが、心の奥底に田代まで行くんだという気持ちを持ち続けたからこそ、成功することができたのだと思う。4人だけでの合宿ということに、反対意見があったり疑問があったりするかもしれないが、高橋、新保、福島のそんな精神性や経験が、部に波及することで日大山岳部を次のレベルへ引き上げてくれるのではないかと私は感じている。
この合宿を一言で表すならば、「俺たち最高!」そんな言葉に尽きる。下級生3名と私というパーティ構成で、正直大変なことが圧倒的に多かったが、田代に到着したときにはそんな風に思えたのである。「俺たち最高!」こんな言葉にこそ、大学山岳部の存在価値が詰まっているのではないかとさえ、この20日間もとい4年間を通して思うのです。最後になりますが、1年間親身にサポートして頂いた大谷監督、コーチの皆様への感謝と、ここまで付いてきてくれた全部員への敬意、そして彼ら、彼女らの今後の活躍に期待を込めて2016年度の活動を締めさせていただきます。
(報告者:水越健輔)