8月4日 源次郎尾根を登り剱岳頂上に達する(撮影:賀来素直)
山行報告書
日本大学山岳部
目的 | 登攀経験を積む |
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山域 | 北アルプス 剱岳(源次郎尾根、Ⅵ峰A魚津高ルート、別山北尾根) |
日程 | 令和元年8月2日(金)~令和元年8月7日(水) 移動1日、実働3日、停滞2日 |
メンバー | 3年 野上博史 2年 喜多嶋拓海、山崎颯太 OB L賀来素直コーチ、SL國谷良介コーチ 計5名 |
行動報告
8月2日(金) 移動日
新宿駅23:10~05:40富山駅
部室で賀来C、國谷Cと合流し、夜行バスで富山駅へと出発する。
8月3日(土) 入山日 快晴 気温20℃
富山駅06:12〜07:20立山駅08:30~09:40室堂10:00〜13:16剱御前小舎〜14:12剱沢BC
立山駅から美女平へと向かうケーブルカーが落石により1時間ほど遅れていたが、問題なく室堂に到着する。空は雲一つない快晴で暑いが、時より吹く風が気持ちよい。去年はザックが40kgほどになってしまったが今回は学生3人が参加し、1人37kgとなりそこまで重く感じない。バテることなく予定より早く剱沢に到着する。キャンプ場は少し込み合っており、防衛大学のテントに囲まれた所に設営した。明日も概ね晴れの予報であった為、予定通り源次郎尾根へと向かうことにする。
8月4日(日) 源次郎尾根 快晴 気温10℃
剱沢BC03:50〜05:00取り付き~09:40室堂~10:00Ⅰ峰〜10:50Ⅱ峰~12:45剱岳〜16:50剱沢BC
去年は非常に暑かった為、学生1人水を4L携行し出発する。クロユリの滝下部までは夏道を歩き、そこからはアイゼンを装着し、スノーブリッジに注意しながら雪渓を歩く。クロユリの滝は既に滝壺まで見えており去年に比べて融雪が進んでいる印象を受けた。予定より少し遅れて源次郎尾根の取り付きに到着する。取り付きすぐの登りは浮石が非常に多く、慎重に足場を決めながら歩く必要がある。最初の7m程の岩場は國谷Cが登り、上からロープで確保する。手の届くガバは去年より動く印象で少し怖かった。その後も要所でOBの方に先行しロープを垂らしていただきながら進む。
核心の2段の岩は野上がリードで登る。2年生の喜多嶋と山崎も難なく登れていた。この岩場の終了点で水分補給をした際、野上の天蓋が尾根の北側に落下する。幸いにも近くで止まっており、賀来Cが懸垂下降し回収する。この先Ⅰ峰までにスラブ上のハイマツ混じりの岩稜で、再び野上がリードしロープを張った。日が昇ってくると非常に暑く、水分補給のペースには気を遣う。Ⅰ峰からは主にクライムダウンで慎重に下降。Ⅱ峰への登りはホールドがしっかりとしており登りやすいが、大きな段差を登らなくてはならず一定の登攀力を要する。
Ⅱ峰に到着すると右側に八ッ峰、正面に剱岳の山頂が現れ、とても奇麗だ。Ⅱ峰からの懸垂下降は25mほど。60mのロープ1本で降りることにする。頑丈な鎖を支点にハンガーボルトとハイマツの2点からバックアップを取った。また、バックアップは勉強としてナッツを使うことも試したがうまく決まらず諦めた。ここから山頂までは浮石とルートファインディングに注意して登る必要がある。特にルートファインディングは左側を意識して登るとよい。
予定より15分程遅れて剱岳の山頂に到着する。5人全員で記念撮影をし、別山尾根より下降を開始する。2年生にトップを任せ、定着合宿で登る際の偵察もかねてルートをチェックする。13時間行動と長い行動時間になったが、2年生の喜多嶋と山崎は疲れを表に出すことなく剱沢BCに到着。出発前に持っていた4Lの水も300mLほどになっており非常に暑い1日だった。今回60mのシングルロープを2本と10mの捨て縄を持って行ったが、60mのロープを同時に出す機会はなく、またお助けロープとして垂らすには10mでは少し足りない場面があった。次回からは60mのシングルロープ1本と15m以上のパワーロープを携行することをお勧めする。
明日はCフェースの計画だが、源次郎尾根から見た5・6のコルの融雪状況や長次郎谷の雪渓上に部分的に亀裂が入っており、判断が難しかったが、Cフェースではなく同ルート下降が可能なAフェースに行くことにする。
8月5日(月) Aフェース 魚津高ルート 晴れ後雨 気温11℃
剱沢BC03:50〜06:40取り付き~07:15登攀開始~10:20Aフェースの頭10:35〜11:30 5・6のコル~12:25取り付き〜15:50剱沢BC
真っ暗な中出発する。今日の天気は午後から曇りはじめ霧が出る予報であったが、日中は暑く長時間行動が予想されたので、前日同様水を4L携行する。源次郎尾根の取り付きを通過し長次郎谷へと向かう。基本的に涼しい風が吹くが、時より生暖かい風が当たり気持ち悪い。また、これを帰り登り返すことを考えると憂鬱である。しかし去年行くことができなかった長次郎谷の景色は心躍るものがあった。源次郎尾根から見えた長次郎谷の亀裂も少し迂回して、問題なく通過する。雪渓からAフェースの取り付きまでの道のりは非常に不安定なガレ場で神経を使う。なんとか取り付きに到着し、登攀に必要でないアイゼンやピッケル、登山靴等を岩陰にデポし、登攀を開始する。隊を國谷C、山崎、野上と賀来C、喜多嶋の2パーティーに分け國谷Cのパーティーが先行し登る。魚津高ルートを登攀対象とした。
1ピッチ目 リード:國谷C-山崎-野上、賀来C-喜多嶋
核心のピッチ。ピナクルからビレイポイントとして支点をとる。凹角の岩壁を登り、その後ハングの下部を右から登る。ガバが少なく難しい。特にハング下部の通過は高度感もあり怖かった。終了点はハーケンが7本ほど打たれていた。その内4本ほどはグラついており懸垂下降するには何とも頼りない。
2ピッチ目 リード: 國谷C-山崎-野上、賀来C-喜多嶋
1p目終了点からの垂壁を直上し、リッジの右側を登る。岩が所々脆く非常に落石に注意する必要がある。リッジに出てから日差しが当たり非常に眩しく、そして暑い。中盤にクラックに入る。1p目同様グレードより少し難しく感じられるが、難なく登る。終了点にはハーケンに加え、まだ新しいであろうリングボルトが打ってある。ここからAフェースの取り付きまでで60mほどであり、60mのロープを繋げれば一気に懸垂下降で降りられるか微妙なところである。
3ピッチ目 リード: 國谷C-山崎-野上、賀来C-喜多嶋
傾斜も少し緩くなる。國谷Cのパーティーはハイマツ帯を直上したが、賀来Cのパーティーはハイマツ帯を右上する。どうやら、右上する方が正しいようだ。このピッチは比較的に易しくグレード通りといったところ。しかし、引き続き浮石には注意することが必要である。終了点はハイマツからとった。
予定では同ルートを下降することになっていたが、後続から他のパーティーが登ってきていることが確認できたので、やむなく5・6のコルを経由し、Aフェースの取り付きへと下降することにする。5・6のコルまで20mほどの懸垂下降をした後、50mほどの懸垂下降の2pで降りる。ハイマツから懸垂下降用の支点とバックアップをとる。1p目の下降終了点の足場が悪く、また2p目の設置の為、國谷Cと野上が先行する。2p目の懸垂下降は残置の捨て縄が何本もあり、それを利用させていただく。2p目の下降終了点はガレ場になっており、非常に神経を使う。國谷C、野上、山崎が下りた後、喜多嶋が懸垂下降中に足元の岩が剥がれ、落石を起こしてしまう。喜多嶋がすぐに「ラック」と言った為、素早く反応することができたが危なかった。その後も、取り付きまでガレ場が続き細心の注意を払いながら下降する。
剱沢の雪渓の登りはバテることなく良いペースで行くことができた。2年生の2人も多少の疲れは見えるもののまだまだ余裕そうである。剱沢の雪渓を登り終え夏道を登り返していたところで雨が降り出し、急いでテントの中に入りこの日の行動を終了した。夕食のパスタは上手く茹で上げることに成功し、最高であった。少し高いパスタソースを買ったのも大当たりであった。
8月6日(火) 停滞 晴れ時々雨 気温8℃
連日の12時間を超える行動で溜まった疲れをとるため今日はレストとする。しかし、登攀隊に休みはない。すぐに筋トレ大会となった。筋トレの後はスペシャルとして持ってきていたゼリーを近くの雪渓で冷やして食べる。暑い中で食べるゼリーは美味い。また、賀来Cがパンケーキを焼いて下さり、これまた非常に美味かった。明日は昼頃から天気が崩れる予報になっていたので、コースタイムを考慮し別山北尾根に行くことにする。
8月7日(水) 別山北尾根 曇り後晴れ 気温10℃
剱沢BC04:20〜04:45撤退開始~05:00剱沢BC
薄暗い中出発する。気温よりも少し肌寒く感じた。取り付きのコルを目指し向かうが、日がまだ上がっておらず、取り付きまで伸びているルートがなかなか見つからない。事前に漠然にではなく、具体的にルートを見ておくべきだった。何とか見つけた道を登っている途中、雨が降り始めた。昼頃から天気が崩れる予報が頭にあったため、撤退することを決める。しかし、天場に着く頃に、雨が上りもったいないことをしたと悔やんだ。天場では賀来Cと國谷Cの下ダブルロープのロープワークと背負い搬送、ナッツの活用方法、3分の1、9分の1を行った。その後は天場の岩でクライミングを楽しみ、スペシャルを食い潰した。
8月8日(木) 下山 晴れ 気温12℃
剱沢BC05:40〜09:50室堂
室堂まで本隊入山を迎えるため、室堂に向けて出発する。1年生の元気な笑顔に癒された。
ふりかえって
今回は私個人として学ぶことの多かった山行となった。特に、山行での「判断」を学んだ。どこでロープを出すべきなのか、撤退するのか前進するのか、次の日の行程はどうするのか。先輩方の判断を見て学んできたつもりでいたが、実際にしてみるとなかなかに難しい。今回の山行を見直し、さらに山行経験を積まなくてはならないと感じた。
また、2年生の喜多嶋と山崎はこの山行を通して成長してくれたと思う。終始ガレ場であり、落石を起こさない歩行技術はかなり上達したのではないか。また、落石を起こしたらどうなるのか理解できたと思う。彼らの成長には今後も注目である。また、山行前にあえて日中の暑い時間帯に走り込んだことでバテることはなかった。トレーニングの大切さを理解してくれたらうれしく思う。最後にお忙しい中登攀合宿に参加しご指導を頂いた、賀来Cと國谷Cに心よりお礼申し上げます。誠にありがとうございました。
(報告者: 野上博史)