令和元年12月7日 唐松岳頂上にて
2019年度初冬合宿報告書
日本大学山岳部
目的 | 生活技術・ロープワークの確立 雪上技術の向上 リーダーシップ・メンバーシップの向上 |
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山域 | 北アルプス北部 八方尾根 |
日程 | 令和元年11月29日(金)~令和元年12月8日(日) 移動1日、実働5日、停滞4日 |
メンバー | 4年 CL福島端流、白土朝香 3年 氏神拓真、野上博史、原島千尋、村上洋道 2年 川下景正、喜多嶋拓海、山崎颯太 1年 相澤佳霖(30日下山)、小口巧、柴田亮、中野聡士、柳元希、米山未羽 OB 國谷良介コーチ 計15名+OB 1名 |
行動報告
11月29日(金)移動日
新宿駅(高速バス)15:05, 18:15(分散出発)~松本駅20:05, 23:15(分散到着)
新宿駅から白馬八方バスターミナルへと高速バスで移動する。到着後、雪が降っていたのでバスターミナルの空いているスペースにテントを立てさせていただき就寝する。ダンロップV8の前室ポールが片方無いことが発覚する。後日、横山コーチに持ってきていただくことにして、それまで竹ペグなどで固定することにする。初日から装備チェックの甘さが出てしまった。
11月30日(土)入山日 晴れ時々曇り 0℃ 積雪30cm
白馬八方バスターミナル06:30~(電車)~07:00八方尾根スキー場07:00~11:00兎平~12:50黒菱平~13:40八方池山荘CS1
5時に起きてテント撤収を行うが1年生のパッキングが遅く出発が遅れる。入山日から気が緩んでいるので注意をする。バスターミナル付近の積雪は5cmほどあり、心配していた雪の量は何とか大丈夫そうだ。スキー場に着くと積雪は20cmほどで歩きやすい。登り始めると1年相澤が体調不良を訴える。先日の夜から激しい腹痛があるそうで、薬を飲んでもあまり変わらない。共同装備を減らして歩かせてみるが症状は変わらず逆に悪化している。
今後の行動と天気の関係から、さらに悪化する前に下山させるべきという判断を下し、相澤を國谷コーチと共に兎平手前でバスターミナルへ下山させることにした。相澤と別れた後、小口が靴ずれを訴えたので、テーピングで応急処置する。兎平を越えると積雪も30cm程と増えてきて、膝下程度のラッセルを交代しながら回していく。黒菱平手前で1年柳が遅れ始める。上級生が励ましながら登らせるがペースが上がらない。小口は頭痛がするということなので共同装備を減らす。その後も足を攣ったり、米山が隊のペースに遅れたりと中々ペースが上がらない。
行動計画よりも大幅に遅れて八方池山荘に到着する。1年生の疲労具合と行動時間から、八方池BCまで今日中に行くのは厳しいと判断し、山荘の方に特別に許可を取って八方池山荘の裏に天幕させていただいた。全体を通して1年生の体力不足が顕著に見られ、細かい動作がいまだに遅い。相澤の下山に付き添って頂いた國谷コーチが18時頃に遅れてCSに到着し合流する。遅くまで本当にありがとうございました。
12月1日(日)晴れのち曇り -5℃ 積雪30cm
八方池山荘CS1 05:05~07:10八方池BC09:30~09:45雪上訓練場14:50~15:05八方池BC
朝起きると星空が見えるほど晴れている。アタック日和だが、この日は八方池BCまで上がり、その後は雪上訓練を行うことにした。撤収を行うが1年生のパッキングが遅く、米山がザックを背負うのにも時間がかかり出発が遅れる。八方山ケルン付近に到着後、福島と村上で一昨年に訓練を行った八方沢の雪渓を偵察しに行く。積雪は40cm程で所々に木々があり、雪上訓練は難しいと判断する。
八方池BCに到着後、テントを設営し風防を作る。積雪は50cmほどあるが新雪のためブロックは作れない。風防は掘り上げた雪をそのまま固めて利用する。テント設営中に福島と國谷コーチで雪上訓練場の偵察をしに行く。第3ケルンから先の稜線に八方沢沿いの適度に良い斜面を見つける。傾斜は少し急だが歩行訓練には丁度良い。
設営完了後に偵察した斜面で雪上訓練を行う。稜線から斜面に下りる地点が少し急で危険だったため、訓練がてらに懸垂下降を行う。支点の設置は3年生が2年生に指導しながら方法を教える。下降を開始するが、1年生は皆セットの手順が遅く時間がかかってしまう。本番の冬山合宿に向けてよりスムーズに行えるようにしなければならない。懸垂下降の後は直登、直下降、ダイヤモンド歩行の訓練を行う。1年生は上級生と共に大きな声を出しながら元気良く行っていた。その後は、FIX工作を1ピッチ行い、もう一度懸垂下降を最後にして訓練を終了する。BCに帰幕後は、翌日の悪天候に備えてテント際の堀を掘って就寝する。
12月2日(月)停滞 雨のち雪 0℃ 積雪50cm
この日は朝から雨が降ったり止んだりの荒れた天気で停滞することにした。午前中は嫌な雨が降り続き、雪が融けてテント内も濡れてくる。昼過ぎになると雨が雪に変わってきたのでテントから出て風防ブロックと堀の作成をする。上級生が1年生にブロックの作り方や竹ペグの埋め方を教えながら行う。明日も冬型の気圧配置が決まるため、風雪に備えて就寝前に除雪作業を行った。横山コーチが諸事情により今回は参加できないという連絡があった。
12月3日(火)停滞 風雪 —7℃ 積雪80cm
八方池BC 07:45~雪上訓練(BC隣の緩斜面)~10:00~(除雪作業)~11:00八方池BC
朝、雪の重みで目が覚める。朝食後に全員で除雪作業を行う。昨夜から40cm程の積雪があった。この日も悪天候により停滞だが、除雪後にBC近くの緩斜面でビーコン捜索の訓練を行う。2年生がはじめに捜索の行い方を解説し、2組に分かれて行う。最初のうちは掘り出すまでに時間がかかってしまうなど細かい反省点が見られたが、回数をこなしていくうちに効率良く動けるようになってきた。午後から天候がより悪化する予報で気温も下がってきたので午前中に訓練を終了する。その後、再び除雪作業をしてテント内に入る。天気が悪いと気分も暗くなりがちだが、皆まだまだ元気そうで何よりだ。
12月4日(水)停滞 風雪 —8℃ 積雪110cm
八方池BC 07:40~雪上訓練(BC隣の緩斜面)~11:00~(除雪作業)~12:00八方池BC
相変わらず雪はずっと降り続いている。昨日と同様に除雪作業後にBC付近の雪上でビーコン捜索訓練を行う。昨日に比べてスムーズに行えるようになってきたのでゾンデを使った捜索を行う。ザックを埋没者に見立てて埋める。1年生は最初ゾンデの使い方に苦戦していたが、上級生のアドバイスによって上達してきた。
ビーコン捜索訓練後は、スノーバーを使った横埋めと土嚢袋を使った支点構築の方法をレクチャーした。柔らかい新雪での横埋めは、強度を保つのが難しく支点が壊れてしまう者が多くいた。訓練終了後は、福島、野上、山崎の3名で第3ケルン付近の斜面を偵察しに行く。見たところ斜度と雪の量が訓練に適していたので訓練場としては申し分ない。その間、他のメンバーは除雪作業を行う。除雪をいくら行っても雪は積もる一方であり、一体いつになったらこの天気は良くなるのだろうか。
12月5日(木)停滞 風雪 —10℃ 積雪150cm
八方池BC 08:30~雪上訓練(BC隣の緩斜面)~09:00(除雪作業)~11:00八方池BC
早朝、シュラフから出るのが億劫になるほど寒い。特にこの日は今合宿一番の冷え込みだった。昨日と変わらず冬型の気圧配置のため風雪が続いている。この日は、アタック用を想定して時間を決め、アタック装備で体操、雪崩ビーコンチェックを行うことにした。しかしながら、決めた時間に間に合わない。停滞続きで気が緩んでいるのか、いまだに隊としての意識が低いため喝を入れる。除雪後にビーコン捜索訓練を昨日と同様にして行う。1回行った時点で気温がとても低く、天候がいつにも増して悪かったため、早めに訓練を引き上げる。ここ数日間断続的に雪が降り続いており、訓練よりも除雪作業がメインとなってきている。積雪もおよそ150cmと、BCから一歩外に出ると腰から胸のラッセルである。夕食後に1年米山が喉の痛みと寒気を訴える。症状はそこまで深刻ではないが、トローチを飲ませて安静にさせる。青空と太陽が恋しくなってきた。
12月6日(金)雪上訓練 雪のち曇り —9℃ 積雪170cm
八方池BC 07:00~雪上訓練(第3ケルン付近斜面)~13:00八方池BC
昨日と同様にアタック日を想定して決めた時間に、アタック装備を準備した状態で体操、ビーコンチェックを済ませる。除雪後、以前偵察を行った第3ケルン付近の斜面で雪上訓練を行う。1年米山は昨日からの喉の痛みがいまだにあるため、國谷コーチと念のためBCに待機してもらうことにした。國谷コーチとは、2時間おきにシーバーで交信を行う。雪は落ち着いてきたが、雲は厚く気温が低い。訓練場に到着後、はじめに弱層テストの方法を上級生がレクチャーして行う。前日まで大量の雪が降っていたので、訓練中は雪崩に細心の注意を払う。弱層テストの後は、ラッセルでの直登、直下降の歩行訓練を行い、次にFIXを2ピッチ張った。リードでロープを張った2年生は、新雪でのスノーバーの横埋めに苦戦し時間がかかっていた。1年生には冬山合宿を想定して、ユマールを使ったスムーズな掛け替えの通過を意識して行わせる。その後、懸垂下降を行った時点で風と気温が低く、天気が回復しないので訓練を終了する。BCに帰幕後、数日ぶりに太陽が顔を出すが、気温が低く寒い。久しぶりのまとまった雪上訓練に皆テンションが上がっているように見えた。明日は天気が回復するため唐松岳にアタックすることにした。
12月7日(土)唐松岳往復 曇り時々晴れ —8℃ 積雪160cm
八方池BC 05:00~08:45丸山ケルン~11:15唐松岳~12:00唐松岳頂上山荘~12:50丸山ケルン~14:30八方池BC
朝起きると星空が見えて風も強くない。米山は喉の痛みが少しあるものの、昨日よりは回復しており調子も良さそうなので連れていくことにする。出発してすぐに膝下程のラッセルになる。最初のうちは山崎と氏神で回していくが、効率化と経験値を考えて全員で交代しながらラッセルを行っていく。天気は高曇りで時々太陽が顔を出している。下ノ樺分岐から、道迷いと雪庇踏み抜き防止のために赤旗を設置していく。扇雪渓の登りでは、胸の高さまでのラッセルがあり中々ペースが上がらない。丸山ケルンでのリミットが迫っていたが、皆の頑張りもあって、なんとか時間内に通過する。
頂上山荘手前の稜線の危険箇所では、福島と國谷コーチで先に偵察を行う。鎖は雪で埋まっているが、ロープは所々出ており、雪の状態からも慎重に通過すれば大丈夫と判断する。落下地点に上級生をつけてロープを掴みながら慎重に通過する。頂上山荘を通過してすぐのコルでワカンからアイゼンに付け替える。ここで2年喜多嶋のアイゼンバンドが凍って装着に時間がかかってしまう。風が強く寒かったので、喜多嶋のアイゼン装着を待っている間、隊員をツェルトに包ませる。唐松岳までの登りは、程よくクラストしており気持ち良くアイゼンがきまる。山頂に到着後、写真撮影を行い、皆で登頂の喜びと素晴らしい景色を堪能する。皆とても笑顔であり、停滞を耐え抜いた甲斐があったと強く感じる。
下山を開始して唐松岳頂上山荘で休憩を取る。風が強まってきたが、帰りは行きのトレースがあったため赤旗を回収しながらスムーズに進んでいく。14時半にBCに到着しその日の行動を終了する。1、2年生にとって今日のようなラッセルが出来たことはとても貴重であり良い経験となったはずだ。
夜中の23時過ぎにV8テントの隊員から、テントが雪で潰され出られないので助けてほしいとの報告を受ける。慌ててテントから出るとV8本体の半分が雪で覆われている。急いで除雪を行い、中に入っている隊員を外に出す。幸い隊員に怪我はなく、他のテントに急遽移動させる。V8を撤収し、夜明けまで2つのテントと國谷コーチが利用していた雪洞で休んで待機することにする。
12月8日(日)下山日 晴れのち曇り —7℃ 150cm
八方池BC 06:00(テント撤収)~08:15出発~10:20八方池山荘~10:50黒菱平(リフト)~兎平(ゴンドラ)~11:05白馬八方尾根スキー場~11:20白馬八方バスターミナル
昨夜の出来事で皆寝不足だが日の出と共に撤収を開始する。ポールが凍っていたり、竹ペグを掘り出すのに時間がかかる。天気は、気温が低いものの晴れている。BCを出発してからは膝下程度のラッセルが八方池山荘まで続く。黒菱平に到着するとリフトがすでに動いていたので利用する。リフトとゴンドラを利用して30分程でスキー場乗り場に到着する。そこから白馬八方バスターミナルへと移動し、今までで最も長い初冬合宿を終える。
振り返って
今合宿は、冬山・春山合宿に向けた訓練合宿であり、冬山における隊としての底上げが目的であった。悪天候によって4日間停滞し、全ての訓練を消化することはできなかったが、冬山合宿に向けての1年生の生活技術や雪崩訓練技術、FIX通過などの土台は作ることが出来たと私は感じている。また、積雪期の唐松岳に登頂できたということも大きい。ただ、一部のロープワークや時間通りに動くこと、返事などの細かい点での課題点は幾つかあった。
最終日にテントが雪で潰されたのは、最終日だから何とか乗り越えられたものの、敗退や死傷者を出すことに繋がってもおかしくなかった。風は北西向きで西側にあったV8の風防側の片方が雪で押しつぶされた。強風によって短時間で吹き溜まりを形成したことや風防とテントの間が狭かったこと、風防が積雪で大きくなり過ぎてしまったこと、何よりも風、積雪への警戒意識が低かったことなど原因が考えられる。前日の天気予報でも強風の予報はなく予想は難しかった。対策としては、テント場を移動させるか風防周りの雪を除雪することが考えられる。今回の出来事を忘れてはいけないし、同じ事故を起こさないためにも引き続き対策をしていかなければならない。
1年生にとっては、悪天候の中、数日間にわたって停滞や訓練を経験したということは今後の冬山合宿以降で活かせるとても貴重な経験になったと思う。また、幾度となく行った除雪作業や深いラッセルを冬山本番前に実地で経験できたということも非常に大きい。2、3年生も以前に比べて指導面や体力面で逞しくなってきたが、まだまだ隊としてレベルアップをしていける。準備あるのみ、冬山合宿を必ず成功させよう。國谷コーチには合宿を通して大変お世話になりました。貴重なご指導をしていただき誠にありがとうございました。
(報告者: 福島端流)