山行報告書

日本大学山岳部

目  的)登攀経験を積む

山  域)北アルプス 剱岳(源次郎尾根、Y峰A魚津高ルート、別山北尾根)

日  程)令和元年82日(金)〜令和元年87日(水)

     移動1日、実働3日、停滞2

メンバー)3年 野上博史

     2年 喜多嶋拓海、山崎颯太

     OB L賀来素直コーチ、SL國谷良介コーチ

5

84日 源次郎尾根を登り剱岳頂上に達する        (撮影:賀来素直)

 

行動報告)

82日(金) 移動日

新宿駅23:1005:40富山駅

 部室で賀来C、國谷Cと合流し、夜行バスで富山駅へと出発する。

 

83日(土) 入山日 快晴 気温20

富山駅06:1207:20立山駅08:3009:40室堂10:0013:16剱御前小舎〜14:12剱沢BC

立山駅から美女平へと向かうケーブルカーが落石により1時間ほど遅れていたが、問題

なく室堂に到着する。空は雲一つない快晴で暑いが、時より吹く風が気持ちよい。去年は

ザックが40kgほどになってしまったが今回は学生3人が参加し、137kgとなりそこま

で重く感じない。バテることなく予定より早く剱沢に到着する。キャンプ場は少し込み合

っており、防衛大学のテントに囲まれた所に設営した。明日も概ね晴れの予報であった為、

予定通り源次郎尾根へと向かうことにする。

 

84日(日) 源次郎尾根 快晴 気温10

剱沢BC03:5005:00取り付き〜09:40室堂〜10:00T峰〜10:50U峰〜12:45剱岳〜16:50

剱沢BC

去年は非常に暑かった為、学生1人水を4L携行し出発する。クロユリの滝下部までは夏

道を歩き、そこからはアイゼンを装着し、スノーブリッジに注意しながら雪渓を歩く。ク

ロユリの滝は既に滝壺まで見えており去年に比べて融雪が進んでいる印象を受けた。予定

より少し遅れて源次郎尾根の取り付きに到着する。取り付きすぐの登りは浮石が非常に多

く、慎重に足場を決めながら歩く必要がある。最初の7m程の岩場は國谷Cが登り、上か

らロープで確保する。手の届くガバは去年より動く印象で少し怖かった。その後も要所で

OBの方に先行しロープを垂らしていただきながら進む。

 

核心の2段の岩は野上がリードで登る。2年生の喜多嶋と山崎も難なく登れていた。この

岩場の終了点で水分補給をした際、野上の天蓋が尾根の北側に落下する。幸いにも近く

で止まっており、賀来Cが懸垂下降し回収する。この先T峰までにスラブ上のハイマツ混

じりの岩稜で、再び野上がリードしロープを張った。日が昇ってくると非常に暑く、水分

補給のペースには気を遣う。T峰からは主にクライムダウンで慎重に下降。U峰への登り

はホールドがしっかりとしており登りやすいが、大きな段差を登らなくてはならず一定の

登攀力を要する。

 

U峰に到着すると右側に八ッ峰、正面に剱岳の山頂が現れ、とても奇麗だ。U峰からの

懸垂下降は25mほど。60mのロープ1本で降りることにする。頑丈な鎖を支点にハンガー

ボルトとハイマツの2点からバックアップを取った。また、バックアップは勉強としてナ

ッツを使うことも試したがうまく決まらず諦めた。ここから山頂までは浮石とルートファ

インディングに注意して登る必要がある。特にルートファインディングは左側を意識して

登るとよい。

 

予定より15分程遅れて剱岳の山頂に到着する。5人全員で記念撮影をし、別山尾根より

下降を開始する。2年生にトップを任せ、定着合宿で登る際の偵察もかねてルートをチェ

ックする。13時間行動と長い行動時間になったが、2年生の喜多嶋と山崎は疲れを表に出

すことなく剱沢BCに到着。出発前に持っていた4Lの水も300mLほどになっており非常

に暑い1日だった。今回60mのシングルロープを2本と10mの捨て縄を持って行ったが、

60mのロープを同時に出す機会はなく、またお助けロープとして垂らすには10mでは少し

足りない場面があった。次回からは60mのシングルロープ1本と15m以上のパワーロー

プを携行することをお勧めする。

 

明日はCフェースの計画だが、源次郎尾根から見た56のコルの融雪状況や長次郎谷の

雪渓上に部分的に亀裂が入っており、判断が難しかったが、Cフェースではなく同ルート

下降が可能なAフェースに行くことにする。 

 

85日(月) Aフェース 魚津高ルート 晴れ後雨 気温11

剱沢BC03:5006:40取り付き〜07:15登攀開始〜10:20Aフェースの頭10:3511:30 5

6のコル〜12:25取り付き〜15:50剱沢BC

 真っ暗な中出発する。今日の天気は午後から曇りはじめ霧が出る予報であったが、日中

は暑く長時間行動が予想されたので、前日同様水を4L携行する。

 源次郎尾根の取り付きを通過し長次郎谷へと向かう。基本的に涼しい風が吹くが、時よ

り生暖かい風が当たり気持ち悪い。また、これを帰り登り返すことを考えると憂鬱である。

しかし去年行くことができなかった長次郎谷の景色は心躍るものがあった。源次郎尾根か

ら見えた長次郎谷の亀裂も少し迂回して、問題なく通過する。雪渓からAフェースの取り

付きまでの道のりは非常に不安定なガレ場で神経を使う。

 なんとか取り付きに到着し、登攀に必要でないアイゼンやピッケル、登山靴等を岩陰に

デポし、登攀を開始する。隊を國谷C、山崎、野上と賀来C、喜多嶋の2パーティーに分

け國谷Cのパーティーが先行し登る。魚津高ルートを登攀対象とした。

 

1ピッチ目 リード:國谷C-山崎-野上、賀来C-喜多嶋

 核心のピッチ。ピナクルからビレイポイントとして支点をとる。凹角の岩壁を登り、そ

の後ハングの下部を右から登る。ガバが少なく難しい。特にハング下部の通過は高度感も

あり怖かった。終了点はハーケンが7本ほど打たれていた。その内4本ほどはグラついて

おり懸垂下降するには何とも頼りない。

 

2ピッチ目 リード: 國谷C-山崎-野上、賀来C-喜多嶋

 1p目終了点からの垂壁を直上し、リッジの右側を登る。岩が所々脆く非常に落石に注意

する必要がある。リッジに出てから日差しが当たり非常に眩しく、そして暑い。中盤にク

ラックに入る。1p目同様グレードより少し難しく感じられるが、難なく登る。終了点には

ハーケンに加え、まだ新しいであろうリングボルトが打ってある。ここからAフェースの

取り付きまでで60mほどであり、60mのロープを繋げれば一気に懸垂下降で降りられるか

微妙なところである。

 

3ピッチ目 リード: 國谷C-山崎-野上、賀来C-喜多嶋

 傾斜も少し緩くなる。國谷Cのパーティーはハイマツ帯を直上したが、賀来Cのパーテ

ィーはハイマツ帯を右上する。どうやら、右上する方が正しいようだ。このピッチは比較

的に易しくグレード通りといったところ。しかし、引き続き浮石には注意することが必要

である。終了点はハイマツからとった。

 

 予定では同ルートを下降することになっていたが、後続から他のパーティーが登ってき

ていることが確認できたので、やむなく56のコルを経由し、Aフェースの取り付きへと

下降することにする。56のコルまで20mほどの懸垂下降をした後、50mほどの懸垂下

降の2pで降りる。ハイマツから懸垂下降用の支点とバックアップをとる。1p目の下降終

了点の足場が悪く、また2p目の設置の為、國谷Cと野上が先行する。2p目の懸垂下降は

残置の捨て縄が何本もあり、それを利用させていただく。2p目の下降終了点はガレ場にな

っており、非常に神経を使う。國谷C、野上、山崎が下りた後、喜多嶋が懸垂下降中に足元

の岩が剥がれ、落石を起こしてしまう。喜多嶋がすぐに「ラック」と言った為、素早く反

応することができたが危なかった。その後も、取り付きまでガレ場が続き細心の注意を払

いながら下降する。

 

 剱沢の雪渓の登りはバテることなく良いペースで行くことができた。2年生の2人も多少

の疲れは見えるもののまだまだ余裕そうである。剱沢の雪渓を登り終え夏道を登り返して

いたところで雨が降り出し、急いでテントの中に入りこの日の行動を終了した。

夕食のパスタは上手く茹で上げることに成功し、最高であった。少し高いパスタソース

を買ったのも大当たりであった。

 

86日(火) 停滞 晴れ時々雨 気温8

 連日の12時間を超える行動で溜まった疲れをとるため今日はレストとする。しかし、登

攀隊に休みはない。すぐに筋トレ大会となった。筋トレの後はスペシャルとして持ってき

ていたゼリーを近くの雪渓で冷やして食べる。暑い中で食べるゼリーは美味い。また、賀

Cがパンケーキを焼いて下さり、これまた非常に美味かった。

 明日は昼頃から天気が崩れる予報になっていたので、コースタイムを考慮し別山北尾根

に行くことにする。

 

87日(水) 別山北尾根 曇り後晴れ 気温10

剱沢BC04:2004:45撤退開始〜05:00剱沢BC

 薄暗い中出発する。気温よりも少し肌寒く感じた。取り付きのコルを目指し向かうが、

日がまだ上がっておらず、取り付きまで伸びているルートがなかなか見つからない。事前

に漠然にではなく、具体的にルートを見ておくべきだった。何とか見つけた道を登ってい

る途中、雨が降り始めた。昼頃から天気が崩れる予報が頭にあったため、撤退することを

決める。しかし、天場に着く頃に、雨が上りもったいないことをしたと悔やんだ。

 天場では賀来Cと國谷Cの下ダブルロープのロープワークと背負い搬送、ナッツの活用

方法、3分の19分の1を行った。その後は天場の岩でクライミングを楽しみ、スペシャ

ルを食い潰した。

 

88日(木) 下山 晴れ 気温12

剱沢BC05:4009:50室堂

 室堂まで本隊入山を迎えるため、室堂に向けて出発する。1年生の元気な笑顔に癒された。

 

ふりかえって

今回は私個人として学ぶことの多かった山行となった。特に、山行での「判断」を学ん

だ。どこでロープを出すべきなのか、撤退するのか前進するのか、次の日の行程はどうす

るのか。先輩方の判断を見て学んできたつもりでいたが、実際にしてみるとなかなかに難

しい。今回の山行を見直し、さらに山行経験を積まなくてはならないと感じた。

 

 また、2年生の喜多嶋と山崎はこの山行を通して成長してくれたと思う。終始ガレ場であ

り、落石を起こさない歩行技術はかなり上達したのではないか。また、落石を起こしたら

どうなるのか理解できたと思う。彼らの成長には今後も注目である。また、山行前にあえ

て日中の暑い時間帯に走り込んだことでバテることはなかった。トレーニングの大切さを

理解してくれたらうれしく思う。

最後にお忙しい中登攀合宿に参加しご指導を頂いた、賀来Cと國谷Cに心よりお礼申し

上げます。誠にありがとうございました。

(報告者:野上博史)

 

83日 雷鳥沢から剱御前を見上げる

 

84日 源次郎尾根

 

84日 源次郎尾根

 

84日 源次郎尾根

 

84日 源次郎尾根

 

84日 源次郎尾根U峰から懸垂下降

 

84日 剱沢BCに帰着

 

85日 Aフェース

 

85日 Aフェース

 

85日 Aフェース

 

85日 Aフェース

 

85日 Aフェース

 

86日 剱沢BCにて