令和元年度 登山リーダー春山研修会 報告書
日本大学山岳部
主 催) 独立行政法人日本スポーツ振興センター
後 援) スポーツ庁
協 力)(公社)日本山岳・スポーツクライミング協会、富山県警察本部山岳警備隊
期 間) 平成30年5月18日(土)〜5月23日(木)
場 所) 独立行政法人日本スポーツ振興センター国立登山研修所及び剱岳周辺
目 的) 大学において登山活動を行うクラブ等のリーダーとリーダー候補者、並びに山
岳団体等で指導的立場にある者を対象に、基礎的技術や基本的状況判断力を習
得するための研修を行い、チームを率いて安全で確実な登山を実践できるリー
ダーを養成する。
5月21日剱岳頂上にて〜後列左から3人目が本学の喜多嶋部員(危機管理2年)
参加メンバー) 喜多嶋 拓海(本学2年) ・・・ 第1班配属
行 動)
5月17日(金) 移動日
ディズニーランド(高速バス)22:10〜06:30富山駅
5月18日(土) 準備
13:30国立登山研修所着
1班の班員、講師は自身が所属する日本大学、中央大学、慶応大学、関西大学から編成
された4名の研修生と信州大学学士山岳会の横山勝丘氏、富山県警山岳警備隊の小竹茂幸
氏の2名の講師で構成された。開会式が行われた後、事前課題の一つであった剱岳周辺
の概念の把握を確認するために概念図を何も見ずに描くテストが行われた。その後班の
メンバーたちと入山に向けて食糧計画について話し合い、食料の発注、個人装備、共同
装備の確認をした。
5月19日(日) 講義・ロープワーク訓練・準備 快晴
国立登山研修所にて終日研修
最初に「読図とナビゲーション」の講義を受け、その後ロープワーク訓練に移る。ザイ
ルを束ねるなどの基本的なロープワークの確認や大学間で違いのあるロープを張る際の
合図や掛け声を確認、統合した後、研修所外のクライミングウォールに二人一組となっ
てマルチピッチクライミングのシステムで最上部まで登り支点を構築して懸垂下降で降
りてくるという訓練を行った。
自身がリードで登っていた際、横山講師に支点を構築する際に念入りに支点の強度確認
を行う事の重要性やクライミングは次の行動を予測し準備しておくことで円滑に進められ
ることなどをご指導頂いた。猛暑のため研修所内の体育館に移りFIX工作の訓練を行い一
連のロープワーク訓練は終了した。その後昨日発注した食料を加工し装備、食料のパッキ
ングをして就寝した。
5月20日(月) 入山日 曇りのち雨
国立登山研修所07:00〜室堂09:10〜雷鳥平10:50〜剱御前小舎11:30〜冬山前進基地12:00
室堂から劒沢に向けて行動中、講師の方々に山を遠目から見て観察し、気づいたことを
メンバー内で共有しルートを判断していくことを教わった。概念図を描いたりエアリア
や地形図を見ただけで行動範囲のことを理解していたような気になっていた自分に深く
考えを改めさせる経験となった。
劒沢到着後、今夜から翌日の午前中にかけて大荒れの天気が予想されたため冬山前進基
地の横にテントを張る。石垣と前進基地の壁の間にテントを張ったため少ない量の風防
ブロックで風を防ぐことができた。テント設営後スノーバーの横埋めによる支点構築の
雪訓をした。班員それぞれが支点を構築してそれを全員で引っ張って強度確認をする。
この訓練によりバーが抜けるときの、つまり失敗の感覚やしっかりと効いているときの
成功の感覚を味わうことができた。訓練では失敗の感覚を体験することも重要だと感じ、
部の訓練に生かせるのではないかと思った。その後帰幕し、就寝した。
5月21日(火) プランニング・支点構築訓練 雨のち晴れ
テントを劒沢野営場に移動、剣御前東斜面にてFIX工作訓練
昨晩から強風と雨が降り続いていたが午前9時頃に突然雨が止んだため本来の幕営予定
地であった劒沢野営場にテントを移す。その後剣御前東斜面にてFIX工作訓練を行う。
二人一組で最下部から稜線上を目指してFIX工作をしつつ登ってゆく。スノーバーやハ
イマツに支点を取る基本的なものから岩の隙間にスリングをかけ、その隙間に雪を詰め
て支点とするような応用的なものまでご指導をいただいた。
時間が間に合わず稜線上一歩手前で引き返すこととなってしまった。引き返す際に懸垂
下降を1回行った。その後シリセードで野営場に戻り起幕する。テント内で講師の方々を
交えて夕食を食べながら明日のアタックに向けての危険個所の把握をして共有し。リミッ
ト決めを行いその後就寝する。
FIX工作訓練を行った剣御前東斜面
5月22日(水) アタック 晴れ
剱沢野営場BC04:00〜4:10剣山荘〜07:50前剱〜10:00平蔵のコル〜10:50カニのヨコバイ
〜11:20剣岳山頂〜12:10エビルンゼ〜13:30平蔵谷出合〜14:53剱沢野営場BC
朝4時にBCを出発し別山尾根から剱岳頂上を目指す。前剣大岩手前でFIXを3ピッチ、
平蔵のコル手前のピークで1ピッチ張った。メンバー間でここはFIXを張るか、クライ
ムダウンで事足りるのではないかなどの議論することが行動中よくあった。講師の方々
に「FIXを張るのは難しいところなどではなく少しでも危険要素がある場所だ。」と教
えていただき、仮に一年生のような新人がいた場合に危険であると班で判断した際には
こまめにロープを出した。
11:20に剱岳頂上に立つことができた。下山はエビルンゼから懸垂下降一回を交えてシリ
セードで平蔵の出合いまで降りた。そこからテント場まで走りで競争をする。酸素が薄
いためこれまでにないほどの苦しさの競争であった。ゴールして班員全員がしばらくの
間雪の上に倒れ込んでいた。また他の班には気を失って冬山前進基地に運び込まれた者
もいた。帰幕し、この日のためにとっておいたペミカンのシチューを食べた。達成感と
心地よい疲労感を感じながら就寝した。
剱岳頂上に立つ1班と横山勝丘講師〜後列左から3人目が本学の喜多嶋部員(危機管理2年)
前剣大岩手間のFIX工作
平蔵のコル手間の急傾斜をクライムダウンで降りる
5月23日(木) 下山日 快晴
剱沢野営場BC05:20〜06:00剱御前小舎〜06:45雷鳥平〜10:50室堂
撤収と出発時間に遅れ、出発から指導を受ける。雷鳥平まで下山しそこから室堂バスタ
ーミナルまでツェルト搬送訓練を行う。横山講師をツェルトで包み、4人で引っ張って搬送
する。時間がなくバスターミナルから約200メートル手前で終了となってしまった。ケー
ブルカーで研修所に戻り風呂と昼飯を班員と楽しんだ。
ツェルト搬送訓練の様子
研修会を終えて
今回の研修会で自分が最も衝撃を受け、部に持ち帰り伝えたいと感じたことはプロクラ
イマーや山岳警備隊など山の第一線で活躍している講師の方々の底を感じさせない程の体
力である。自分たちが劒沢を走ってテント場に帰った時も講師の方々は自分たちの前を走
りつつ息も切らさずに檄を飛ばしていた。山で命を分けるような選択を常日頃から迫られ
るような環境にいる講師の方々にはそんな中でも冷静に判断できるだけの余裕を体力面か
ら間近で見て取ることができた。
各部員が体力的余裕を持ちつつ山で行動できれば、冷静な判断や事故の減少、応用的登
山技術へのステップアップ、そしてより難易度の高い登山ができると今回の研修会で確
信した。しかし計画的なトレーニングを突然始めることの難しさもよくわかる。自分が
率先してトレーニングを行い、他の部員とトレーニング内容や日頃のトレーニングによ
る身体の変化を共有していくことで部全体の体力向上に繋げていきたいと思う。登山の
みならず全てのスポーツの技術の土台ともいえる基礎体力の向上の大切さを部に広め、
その向上に向けた起爆剤となりたいと感じさせ学ばされた研修会であった。
(報告者:喜多嶋 拓海)