2016年度 冬合宿報告書
日本大学山岳部
目 的) 剱岳登頂
メンバーシップ・リーダーシップ向上
山 域) 北アルプス剱岳 早月尾根
日 程) 平成28年12月23日(金)〜平成29年1月1日(日)
移動1日、実働4日、停滞5日
メンバー) 4年 CL水越健輔、SL加藤純
3年 高根澤亮太
2年 國谷良介
1年 川村洸斗、近藤歩、新保裕也、福島端流 計8名
平成28年12月31日 剱岳頂上に全員登頂
12月23日(金)移動日
新宿20:40(5人)、23:15(3人)〜05:10、05:40富山駅
合宿直前に2年高橋が風邪のため不参加となってしまう。非常に悔しいが気持ちを切り
替えて部室を出る。部室には蝶ヶ岳へ出発した大谷監督、賀来コーチ、女子部員からの差
し入れ、激励のメッセージがあった。全員無事に帰ってきて、部室で顔を揃えよう。
12月24日(土)入山 くもり時々雪 1℃(08:00馬場島)
電鉄富山駅06:05〜06:32上市駅07:00〜08:00馬場島10:00〜16:00 1700mCS
東京からのバスでザックが大きすぎるため乗車拒否されそうになった経験から、かさば
る食料等を上市のタクシー会社に事前に送っており、上市のタクシー会社到着後に高橋分
の食料を抜く作業を行ってから伊折ゲートへ向かう。伊折ゲートに到着したが、雪が少な
いため特別にタクシーが馬場島近くまで入ってくれた。
想定外に早く馬場島に到着するも、警備隊がまだ馬場島におらず、1時間ほどパッキング
を直したり、少し先まで偵察へ行ったりして、警備隊の到着を待つ。馬場島の積雪は30cm
ほど。
警備隊も到着しヤマタンを受け取ってから入山する。1400mまでは膝下のツボ足ラッセ
ルでワカンも必要ない。1400mを過ぎたあたりから膝上のラッセルとなり、所々腰近くま
で潜るラッセルになる。全員でトップを交代しながら良いペースで進んでいく。
予定していた1600mを過ぎたがテントを張れそうな場所がなかなか出てこない。どうやら
見落としてしまったらしく、結局1700m付近にテントを張る。ここもなかなか快適な天幕
地であった。嬉しい誤算もあり合宿初日は順調なスタートを切った。
12月25日(日)ルート工作 晴れ −2.6℃
1700mCS〜早月小屋AC〜エボシ岩手前〜早月小屋AC
1700mCS05:01〜09:30早月小屋AC10:20〜14:30エボシ岩手前〜16:20早月小屋AC
指定した出発時間を1分ほど過ぎてテント場を出る。1分程度、ほんの少しの意識の差で
あると思うのだが。本日のテント場に着いてから反省してもらうとして、早月小屋に向け
てラッセルしていく。昨日同様膝下から膝上程度のラッセルである。
予定していたよりも早く早月小屋に到着できたため、ルート工作へ水越、高根澤、國谷
で出発する。早月小屋より上部でも、膝下から膝上程度のラッセルで済む。Peak2614を
過ぎてもしばらくフカフカの雪でワカンだけで進んでいく。エボシ岩前のピラミダルな
2614m峰を50mトラバースでFIX。ここは雪崩に気をつけるのはもちろんのこと、雪庇
が池の谷側に張り出すためこの崩壊にも注意。比較的雪が安定していたので、今回はトラ
バースする。この辺りでアイゼンに履き替える。
続く小ピークは40m直登でFIXし、区切ってから、20mほどトラバースで更にFIXす
る。アタック日の機動力を少しでも上げるため、この地点にシングルロープ2本とスノ
ーバー数本をデポし、ACへ帰幕する。今日は今合宿一番の快晴であった。誰のトレース
もついていない真っ白な雪稜、荒々しい岩稜、青い空、全ての景色が素晴らしかった。
これだけで冬の剱に来る価値がある。
12月26日(月)停滞 くもり後雪 気温不明
昼過ぎから悪天が予想されるため停滞とする。9時過ぎに警備隊がヘリで到着した。12
時過ぎから雪が降り始め、時折強い風がテントを叩く。長い停滞が予想されていたので、
今回はトランプを持ってきており、1日中大富豪ばかりやって過ごした。
12月27日(火)停滞 雪後小雪 気温不明
昨晩からみぞれに近い雪が降り始め、朝4時頃には強烈な風がテントを襲ってくる。風
防ブロックも壊れてしまったようだ。昼前から雪は弱くなってきた。昨日からだいたい
40cmほど積もっただろうか。雪かきを終えて、今日もまた大富豪で時間を潰す。停滞でも
いかに楽しむことができるか、こういった要素も大切であると思う。
12月28日(水)偵察、停滞 雪後晴れ −10℃
テントの圧迫で5時前に目が覚め、すぐに除雪を開始する。70cm近く積もった。これぞ
剱岳といった感じだ。
トランプばかりやっていてもだらけてくるだけなので、軽く動くことにする。とはいえ
大量降雪後のため、上級生のみで行動する。11時過ぎに水越、高根澤、國谷で最初のピー
ク手前の斜面までラッセルする。この最初の斜面も過去に雪崩れたことがあるそうなので、
ここまでとする。出発してから1時間ほどで帰幕した。
12月29日(木)偵察、停滞 風雪時々くもり後雪 −11℃
早月小屋AC06:00〜07:30最初の小ピーク過ぎ〜08:30早月小屋AC
水越、高根澤、國谷で偵察へ向かう。天候は軽い風雪であり、午後から天候の急変との
予報のため、午前中には帰幕することを決めて出発する。最初のなだらかな斜面前でアン
ザイレンし、この斜面はスタカットに切り替える。ブッシュ沿いを行かなければ、すぐに
30cmほどの層が面発生で足元から崩れ、かなりの恐怖を覚えた。
ブッシュ沿いを行けば意外に安定しており、30m2ピッチほどでこの斜面を抜ける。ここ
でアイゼンに履き替えるが、高根澤のアイゼンに不備があり装着ができない。風が少々強
いことも相まって、やむなくACに帰幕する。AC到着後、高根澤のアイゼンは直すことが
できた。結局ほぼ停滞のような1日となったが、悪天でロープを出しての行動が高根澤、
國谷には良い経験になったと考えておこう。
12月30日(金)停滞 雪後晴れ −7℃
昨晩から40cmほど雪が降り積もり、食事後に雪かきを開始する。昼前から晴れ出し、剱
岳の頂上もよく見える。雪煙棚引く頂上はなんとも神々しい。昼過ぎに10人を超えるパー
ティーが上がってきた。以前お世話になったことがある明治大学山岳部OBの山本氏、
三戸呂氏、関西大学OBの奥田氏らのガイド登山パーティであった。他にも法政大学山岳部OBの方々と
もお会いした。おそらく今5パーティほどが早月小屋にいる。
今日の好天で雪は締まった。ルート工作が不足していること、明日は風が強そうなこと
ど不安要素はあるが、今後の天候を考えても明日アタックするしかないだろう。警備隊の
方からも言われたが、引き返さなければならないタイミングをよく見極めて明日全員でア
タックすることを決定する。
12月31日(土)アタック 雪 –11℃
早月小屋AC05:00〜08:30エボシ岩〜11:30カニのハサミ〜13:30剱岳〜18:30早月小屋AC
昨晩は不安と緊張、寒さで眠れぬ夜となった。大谷監督の差し入れであるフリーズドラ
イのカツ丼を食べ、ゲンを担いで出発する。天候は雪だが、予想に反して風はほとんど吹
いていない。我々が一番に出発する。2500mまでは昨日ラッセルしていたパーティがいた
ため、トレースを頂く。視界は50mほどのため、水越、高根澤でトップを交代しながら慎
重に進む。所によっては胸ラッセルだが、雪は締まっている箇所が多く積雪コンディショ
ンは良い。
2614m峰から25日にFIXしておいたロープを掘り出し、スムーズに通過していく。
エボシ岩は高根澤が左から回り込むように直登してFIXを張る。その後、2ピッチほど出
して進み、気づけばカニのハサミまで到達していた。この辺りで後ろから来た2人組のパ
ーティに追い抜かれた。シシ頭の通過等は視界が悪かったこともあり、よく覚えていない。
カニのハサミ手前のトラバースで30mほどFIXを張り、そこから鎖が出ていたため、鎖に
FIXしながら通過する。カニのハサミ直後のコルからトラバース気味に少し登った箇所か
らFIXを張る。一旦やや平坦となる箇所までが20mほど、そこからガリーに入っていくが、
10mほど足りずショートロープで補強して工作した。ここで5パーティほどが交錯してし
まい予想外に時間がかかってしまった。頂上直下ガリーを抜けても、そこから別山尾根と
の分岐のポールまでの15mほどのトラバースも岩が露出して所々氷化しているため、ショ
ートロープを出した。
遂に剱岳頂上に到達するが、チーフリーダーとしては下降で頭がいっぱいのため、特に
感動といった感情が湧いてこない。すぐに写真を撮って下山を開始する。だいたい10ピ
ッチ近くザイルを出して下山した。他にも法政大学OBの方々が残置したFIXロープを
使わせて頂いた箇所もあり大変助かった。皆疲労困憊といった表情であるが、全員無事に
ACに帰ってくることができた。疲れ切った静かな空気のテント内で、ラジオから紅白
歌合戦が流れている。徐々に徐々に全員で登頂したという達成感が沸き上がってきた。
1月1日(日)下山 くもり時々雪
−8℃
早月小屋AC08:45〜13:10馬場島〜15:00伊折ゲート
昨日の疲れもあるので、ゆっくり出発する。いくつかのパーティがすでに下山している
ためトレースはばっちり付いており、簡単に下りていくことができた。馬場島では明治大
学OB、法政大学OBの方々から労いの言葉を頂き大変恐縮であった。
2014年度冬合宿で敗退した日から、私にとって憧れの山であった剱岳。耐えに耐えて、
わずかなチャンスに賭けてアタックを仕掛け、落とした2999mの頂き。この山に対して少
しの隙も見せまいと、気を張り続けた。まさに試練と憧れの山であった。
馬場島から一瞬の晴れ間に顔を覗かせた剱岳が見えた。剱岳よ、素晴らしい時間をありが
とう。
総 括
本年度の秋山合宿以後、我々が冬の剱岳に全員で登頂するためには、1年から4年まで全
員が全力を出し切らなければならないという決意のもとに、計画を立て準備をして早月尾
根に入った。結果的にアタック日は簡単に登頂してACに帰って来られたという者は一人も
いない。全員が最大限の力を出し切った、と主将として自信を持って言うことができる。
1年は雪が1日中降り続き、視界も50mほどの悪天候のなかよく耐えてくれた。想像以
上に強いフィジカルを1年生全員が見せてくれた。2年國谷は1年の面倒をよく見て、的
確に指示を出すことができていた。一人の凍傷者も出なかったのは彼のおかげだと思って
いる。3年高根澤は私とともにルート工作をし、素早く確実に道を拓いていってくれ、成長
した姿を見せてくれた。加藤副将は私がロープを出さなくても良いのではないかと思うよ
うな場所で、出したほうが良いと意見してくれ、安全面において彼の存在は欠かせなかっ
たと考えている。実際に加藤副将が指摘して、出しておいて正解だったと思う箇所も多々
ある。このように全員がそれぞれの役割を果たし、努力することができた合宿になった。
私個人としては、引き際を考えさせられる合宿になった。特にアタック日などいつ引き
返すべきなのかという判断を迫られるような状況下で、隊員の状態、天候、時間といっ
た情報を総合的に判断し、結果的に成功に導くことができた。しかし、今回はたまたま
うまくいったにすぎないかもしれない。早月小屋ACにいる間、引き際をしっかり見極め
ることを警備隊の方から何度も言われた。命に係わる仕事をする警備隊の方の言葉は重
く心にのしかかってきた。これからもこのことを肝に銘じて山に行こうとより身が引き
締まる合宿となった。
今回の合宿は自分たちにとって大成功とも言えるほどの結果であったと思う。しかしな
がら、当部の先輩方や世の中の岳人たちは、さらにレベルの高い登山をたくさん行って
いる。今回の結果は途中地点に過ぎないし、日大山岳部は更なる高みを目指せる場所で
あるはずである。このことを特に3年生以下が感じてくれていれば、我々はより素晴ら
しい登山ができるはずである。本年度の活動も残りわずかであるが、事故のないよう全
身全霊を賭けて山に挑戦していきたい。
(報告者:水越健輔)
24日 早月尾根に取り付く。遂に剱への合宿が始まった…・
ラッセルは深まっていく。
早月小屋AC目前
早月小屋AC到着(左のスノーキャップはトイレ小屋)
上部偵察
上部偵察
Peak2614
偵察を終えてACへ帰幕
早月小屋AC設営:豪雪対策
早月小屋AC設営〜真田丸より深い空濠、鉄壁の風防ブロック
アタックの日、雪の中登高は続く
カニのハサミ
頂上に立つ
平成29年1月1日 伊折ゲートへ下山 撮影:水越健輔