2007年  秋山合宿 北岳バットレス

期間: 平成19年10月4日〜10月6日

メンバー: L石垣聡美(4)、SL設楽琢麿(2)

場所: 南アルプス  北岳バットレス

104日(木)入山日 ガス

広河原発1202〜二俣着1435〜白根御池小屋BC1500 

甲府駅からバスで2時間半揺られる。あまりに長すぎて、二人とも就寝。12時前にやっと広河原に到着し、沢沿いの緩やかな道を登る。途中、「落石の為、迂回路」の標識があり、右岸にルートが変更されている。その道を登っていくと、小屋が近いのか機械音がする。しばらく登ると二俣に到着する。天気が悪く、ガスっているので北岳は見えない。さっきの機械音は二俣にあるトイレの機械音であった。ここからBCまでは樹林帯のトラバースになる。BCに到着し、テントを設営する。この小屋のトイレに感動!水洗で、ペーパーもあり、中に入ると電気が自動的に点灯するのだ。下界のトイレよりきれいだ。水も豊富でBCには最適のテント場である。

105日(金)偵察日 雨のち曇り、時々晴れ

BC515〜二俣着535〜バットレス沢出合着630〜bガリー大滝下部着650〜二俣着815BC840

夜、大雨が降っていたが明け方には止む。雨のため、木や岩が濡れており滑りやすい。資料で得た情報を基にバットレス沢の大岩を探しながら、大樺沢を登る。二俣から10分くらい登るとバットレス沢と間違えやすい涸沢を発見する。二俣から55分くらい登ると、右手に資料で見た通りの大岩を発見!登山道を少し登り、バットレス沢奥のC沢を確認し、その間にある尾根に取り付く。さすが人気ルートだけあり、尾根には明瞭な道がついている。所々に赤布も付けられている。道は所々、ザレや岩場が出ており少々いやらしい。特にbガリー大滝直下の道は、ガレており登りにくい。この尾根をつめていけば、bガリー大滝直下に出る。尾根を登っていくと、ガスの切れ間からバットレス全体が見え、思わず「おおー!!」と声をあげてしまった。一方、設楽は「うん。」といつもの反応。彼は武士なのである。bガリー大滝に到着し、岩場を観察する。やはり晩の雨のため水が流れている。見たところ、ホールド、スタンスがしっかりしており登りやすそうだ。一折り偵察した後、来た道を戻る。下りは登り以上にいやらしい。赤布を三箇所付けながら下る。BC到着後は明日の装備をチェックし、休養する。下界から持ってきた「R25」を読んでいると、ボディービルダーの記事を発見!何やら、いいポーズやいい筋肉をしていると観客は「キレれてるっ!」(筋肉の筋が)とか「でかい!」(筋肉が)と、ほめ言葉を発するようだ。これには二人して爆笑。そしてこれが、この合宿の流行語となる。夜、天気図を取る。「明日は晴れ!」と予想し、早々と就寝するも、昼寝をしすぎたせいか、緊張のせいか眠れない。トイレに起きると、ヘッデンの明かりで「輪違屋糸里」を読む設楽にびっくりさせられる。しばらくして二人ともシュラーフにもぐりこみ、明日の登攀を夢に見ながら眠りにつく。


106日(土)登攀日 快晴後ガス

BC230〜二俣着250〜バットレス沢取り付き着355〜bガリー大滝下部取り付き着425〜待機〜bガリー大滝登攀開始515〜bガリー大滝登攀終了550〜横断バンド〜ヒドゥンスラブ登攀開始630〜第四尾根取り付き着630〜第四尾根登攀開始640〜垂壁着730〜マッチ箱着756〜懸垂終了824〜枯れ木のテラス着855〜登攀終了点着915〜北岳頂上着950〜草すべりルート〜BC1145

朝、テントを出ると満点の星空が広がっている。よしっ、行ける!!と思わずニヤリとしてしまう。 二人ともほぼ本ちゃんのアルパインは初めてということもあり、気合を入れすぎ、朝、早すぎる出発となった。その為、日の出前にbガリー大滝取付きに到着してしまった。それにしても風が強く、その上寒い!手袋からカッパまで、持ってきた装備をすべて見につけるが、吹き上げてくる風の寒さには勝てなかった。登攀準備を済ませてセルフを取り、いそいそとツエルトをかぶる。二人とも震えながら夜明けを待つ。設楽が、「男だったらもうちょっとくっつくんですけどねー」と言ってくる。一応女性として見られていることに安心する。風の音しか無い世界で、静かな緊張感の中、登攀開始を待つ。よし、明るくなってきた。登攀開始である。最後のピッチ以外はすべて石垣がリードした。

bガリー

P目:クラックを登る。寒い上に、出だしなので動きがぎこちない。難しいところは

ないが慎重に抜ける。ビレイしていると、だんだん太陽が出て暖かくなってくる。

初のアルパインを今、登っていることにとてもありがたい気持ちになり、気分が高揚し

てくる。

2P目:スラブ状を終了点らしきガレ場まで。1P目を目一杯張ることが出来れば届いたのだろうが、今回はわずかに届かなかった。しかし、傾斜は緩い所なので特に問題は無い。

 

ここで一端ロープをたたみ、登山靴に履き替え、四尾根取付きまで移動する。終了点から左上していくと左に顕著な踏み跡があった。横断バンドだ。これを辿っていくと右に曲がっている部分があるが、ここで一段岩を降りて進むとcガリーに出た。右岸にペンキで「4オネ」と書いてある。そこを目指しcガリーを詰めていく。ヒドゥンスラブに到着する。ここからまたフラットソールに履き替え、登攀準備をし、第四尾根取付きまで行く。

写真で何度も見たクラックを間近で見る。取付きには「4」とご丁寧に書いてある。「やっと来たね!設楽!」嬉しさとともに、いい緊張感が沸いてくる。さて、ここからが本番。 

第四尾根

1P目:クラックから草付混じりのフェースを60m一杯に伸ばす。クラックは最初の出だしが悪いが、一段上がればあとは足をねじ込んで登れば行ける。クラック後のフェースはピラミッドフェースがある左側に行かないように注意しながら登る。スリングのかかっているビレイ点までわずかに届かず、手前のハイマツでビレイする。それにしてもホント天気がいい。さっきの寒さがうそのようにポカポカしている。登ってくる設楽も楽しそうだ。

2P目:白い岩のクラックからリッジを経て第2コルへ。これも60m一杯である。クラックというよりはスラブに近い。ここを登ると第一コル。まだ長さに余裕があったので少し上がったところの第二コルまで一杯に伸ばす。すると、目の前に核心の垂壁が!写真や想像していたものより迫力はなかったが、見るからにホールドが少ない。ここが核心と思うと、早く登りたいと強く思う。

 

3P目:核心の垂壁から懸垂下降点まで30m程度。いよいよ10mほどある、核心の垂壁である。設楽の「右を巻けばVですよー」という言葉を振り払い、気合を入れて登る。足場はつるつるしているが、細かいスタンスを探せば立てる。上部にあるホールドをつかめた時「行けるっ」と思い、一気に体を上げる。「よっしゃー!!」思わず嬉しさゆえ声を出してしまった。すぐ後ろで設楽の「キレてるっ!」の声。なにせその言葉は今合宿の流行語である。思わず笑ってしまったが、その後のリッジも気が抜けない。ここで再度深呼吸し、気合を入れる。慎重に登り、マッチ箱まで伸ばす。設楽も余裕そうに登ってくるが、登るというよりは、リッジをまたがっているというほうが適切か。その設楽をマッチ箱で迎える。

4P目:マッチ箱から懸垂下降。石垣、設楽の順で下降する。少し準備に手間取ってしまう。

5P目:右の深いクラック?からフェースを経て凹角、枯れ木テラスまで。クラックの部分のランニング短かったので後半ザイルが重かった。これもザイル一杯。ここからの眺めはバックにマッチ箱のある、写真で何度も見たことのある光景であった。ベタだが、この光景をカメラに収めようと思ったが、さっき設楽にカメラを渡してしまったことに気づく。あ〜、残念。

6P目:いよいよ最後のバルジ(フェース中のもりあがってふくらんだ部分を指す。)からスラブは設楽がリードする。慎重に行くように伝え、ビレイする。しばらくすると「ビレイ解除」の声が聞こえ、ほっとしてビレイ解除する。登っていくと岩がクレバスのように大きく割れている。ここもザイル一杯に伸ばして終了点に出た。終了点は広いテラスになっている。

ロープを解き、登山靴に履き替える。私はなんだか照れくさかったが、一緒に登ったパートナーに勇気を出して握手を求めると、「頂上でしましょう」とあっさり断られた。それじゃあと、終了点でセルフタイマーで写真を撮ることにする。見ると、逆光の上、ぼけている私たちがそこに写っていた。なぜか私たちはお笑いになってしまう。ゆっくり登り30分くらいで頂上に到着。そして、やっと握手する。二人とも北岳をアルパインルートから登ることができて満足である。結局3P目以外は60m一杯に伸ばして合計5Pの登攀だった。(懸垂を除くと。)記念撮影をし、のんびり帰幕した。テント場に到着するやいなや、小柄のおじさんが「バットレス登ったきたんか?」とニヤニヤしながら聞いてくる。「おれは昔、中央稜登ってなー・・・」と昔話が始まる。聞いていると、何やら昔はバリバリ登っていたクライマーだったことが判明。しかも現役を引退しても、3月に万太郎尾根を単独でやろうと計画しているらしく、デポももう上げてあるとのこと。開拓者精神、そして考え方が柔軟だ。現役の私たちはもっとがんばらねばなあと、設楽と顔を合わせたのであった。天気がいいので外のベンチでお茶を沸かし、ランチ(非常用に持ってきたスープと乾パン)をする。登攀のことや冬山のことなど話していると、見たことある顔の人が!学習院の三人であった。こんなところで会うとは思っても見なかったのでついついうれしくなる。四尾根を登りに来たとのこと。夜、三浦君がテントに遊びに来る(というか取付までのルートを聞きに来た)。山の中で、他大学の人と話すのは新鮮である。そして、三浦君がテントに来た翌日から、私のボールペンがなくなったのであった。

文責:石垣聡美


マッチ箱コル手前のリッジ


最終ピッチをリードする設楽


北岳山頂