2005年  夏合宿 分散登攀

期間: 平成17年8月8〜9日

メンバー: L鈴木、早見

場所: 北アルプス北部  槍沢定着 チンネ左稜線

レポート

 夏合宿が始まって、9日目。ここまで、私と早見は、ボッカを終えて富山駅で半日休養した以外、フルに行動してきた。しかしまあ、このごろよく思う。山にいる間は楽だ、と。山では、山のみに全神経を注げばいい。下界は、なにかと忙しい。夏合宿なら、睡眠だってたっぷり取れる。贅沢な時間を過ごしていると感じる。だが、厳しい雪上訓練等を終え、立て続けにチンネ。上級生2人とはいえ、体力面でも多少の不安はある。しかも、私と早見のことだ、争うように素早く行動し、重労働になることは間違いないだろう。

8月8日(月)晴れ時々雨

剱沢BC3:20発〜長次郎谷出合4:00着〜池ノ谷乗越6:35着〜三ノ窓7:15着〜チンネ左稜線取付8:00着〜登攀開始8:30〜チンネの頭(登攀終了)12:55〜下降開始13:30〜三ノ窓14:10着

 チンネ左稜線。早見にとっては、2年前、現鳥居HC、須田と登攀する予定だったが、散々の雨で、そのチャンスを逃している。奇しくも、本日8月8日、鳥居コーチ、須田の誕生日。チンネリベンジおめでと〜、お誕生日おめでと〜、なんてことになれば、おつなもんだ。

 昨晩話し合った結果、予定を少し変更し、チャンスがあれば今日中にチンネを登ってしまうことにした。予定ならば、今日は、休養を兼ねてチンネは登らず三ノ窓泊。しかし、チンネはある意味では天気が核心。チャンスを逃す手はないということだ。予定通り、3:20頃、そっけなく須田たちに別れを告げて剱沢BCを後にする。既に、頭の中はチンネで一杯だ。目が悪い早見は、暗闇が苦手。なので、私がトップで飛ばす。長次郎谷出合に、4:00頃到着。メットを装着し、いつもより重荷で長次郎谷を詰めだす。当然、アイゼンは履かない。熊の岩を越え、長次郎谷右俣の先にある池ノ谷乗越を目指す。他の登山者の情報によると、今年、右俣上部の状態は、悪いとの情報がある。中には不可能なんて話もある。んなこたぁねーだろと思いつつ、ステップを刻む。実際、行って帰ってきている人だっているわけだ。6:10頃、ガレ場と雪渓をまじえ、乗越に近づく。急な雪壁、カールの繰り返しと言った感じで、確かによくはない。私達は、ピッケルとキックステップで慎重に越えていく。途中、私は、両足共につま先が割れて、パカパカになった山靴でのキックステップに心もとなさを感じ、バイルを装備し、ダブルアックス(?)で登る。最後は、雪渓を慎重にトラバースし、6:35、池ノ谷乗越に到着した。ここから、長次郎谷を眺めるのは初めてだ。同じ景色にも飽き飽きしてきていたので、違うエリアに来れることが嬉しい2人。早見と2人だと、非常にスムーズに進み、気持ちがいい。

 6:45頃、池ノ谷ガリーを下りだす。急なガレ場で悪いとは聞いていたが、確かに不安定。大きな岩でも平気で転がりだしそうだ。ただやはり・・・楽しい。開放感がある。7:15頃、三の窓に到着。「ほー、これが三の窓か〜。」と少し感動。既に、ツェルト一張、テント一張があった。ナカナカ快適そうである。東側にテントを張る。そういえば、三の窓雪渓を見るのも初めて。展望のよい気持ちのいい場所だ。ここから、左稜線のほうを眺めると、あれが取付か、と一目で分かる。資料で見たとおりだ。1P目が雪で埋まっていることもあるようだが、今回は、はだけている。見ると、3人パーティーが1P目終了点のテラスで登攀準備をしている。上部のほうにも人影があり、数パーティー取り付いているようだ。うーむ、行くかどうするか少し迷うところだ。リミットには、まだ余裕がある。できれば、一番に取り付き、ズバーッと一気に登ってしまいたい。今行けば、順番待ちになることは間違いない。しかし、せっかくの好天。もし明日雨でも降ったら・・・。行こう、と決める。何より早く登ってみたい気持ちが強い。いそいそと準備し、7:50、三の窓から、チンネ左稜線取付へと向かう。雪渓を、バイル片手に横切ると、あっという間に取付に着く。3人組は、割とのんびり準備をしており、やっと登り出すところ。どうやら1P目は、ザイルはいらない。私も早見も、山靴のまま適当に登り、1P目終了点の安定したバンドに腰を下ろし、8:00。前のパーティーが2P目を登りだしているが、見ないようにする。できたら今日のうちにBCまで戻り、明日は完全休養、なんて話もあったが、なさそう・・・と思う。ゆっくりと登攀準備をする。しばらくすると、3人パーティーが見えなくなった。8:20、シーバー交信を試みるが、つながらない。前のパーティーは、3人組ですぐに追いつくことは目に見えているので、のんびり待機する。登攀前に、これほどのんびりしているのは初めてだ。8:30。では、そろそろ行きますか。

1P目(鈴木リード)
 「Challenge!Alpine Climing」のルート図の2P目。今回、核心の小ハング乗越は、早見に譲る予定。お馴染みになってきた60mロープで、打ち合わせどおり、まず私がリードさせてもらう。出だしから、バンドまでチムニー気味のクライミング。ピンがやや少なめだが、簡単。途中のバンドで、左手にトラバースした後、再び上のバンドを目指し、簡単なフェースクライミング。ロープの流れが悪いなー、と思いつつ登ると、案の定、悪くなる。ザイルアップが重たい・・・。

2P目(早見リード)
 8:55、リード開始。簡単なフェース。ピナクル側のビレイ点まで行く予定だったが、流れが悪かったようで、途中のバンドで区切る。それにしても青空が美しい。最高のクライミング日和だ!

3P目(鈴木リード)
 トポ(ルート図)に、ピナクルと書いてあるが、近づいてみると、どのピナクルのことだかイマイチ不明瞭。まあ、たいした問題ではない。トポの、4P終了点まで行こう、と登り出す。ルンゼからフェースを登る。気が付けば、5P目(トポの)のリッジが目の前に。まだ、ザイルは大分あるので、いけるかどうか試すが、やはり流れが悪くなる。しかも、リッジ先のフェースに、先ほどのパーティーがいる。やはり、今回はのんびり行きましょう。

4P目(早見リード)
 リッジ。9:50頃リード開始。すぐ終わる。

5P目(鈴木リード)
 トポでは、リッジ左のハイマツ交じりのフェース。前のパーティーは、まだ途中。どこでも登れそうなので、リッジあたりをぐいぐい登り出す。楽しい!!自由に登り、隣のパーティーを抜かしたあたりで、適当に区切る。残地のハーケン2本と、1本ハーケンを打ち、支点を作る。10:05頃、早見が登ってくる。

6P目(早見リード)
 早見は、トラバースし正規のルートへ。紳士的に前のパーティーの後ろで待つ、とのこと。そういえば、今まで先行パーティーがいたことはなかった。これもいい経験だと思う。ぼんやりしながら、ふと目の前の岩を見る。岩に、ビラビラした灰色の物体がたくさんへばりついている。じーっと見ていると、これ、食えるんじゃねえか?と思えてくる。・・・ためしに口の中に放り込む。はじめは固いが、だんだんふやけてきて・・・結構いける!?そういえば、GW山行で鹿島槍に行ったとき、タクシーの運ちゃんが「イワダケ」なるものがあると言っていたことを思い出す。
私「早見ぃー、このビラビラしたの食えるぞ!」
当然のってくると思ったが、
早見「どんだけ飢えてるんですか。」
と、つれない返事。すると、前パーティーのおっちゃんが、まさに、イワダケであることを教えてくれた。やっぱり!別に飢えているわけじゃないが、暇なのでむしゃむしゃ食べる。ビニール袋を持ってこなかったことが悔やまれる。気を取り直して、早見、前のパーティーがいなくなったところで、再び登り出す。トポの7P目終了点、リッジ上の凹角で区切る。

7P目(鈴木リード)
 10:40頃、リード開始。この頃から、曇りだして展望が望めなくなる。前のパーティーは、のんびり行く、ということで、前を譲ってくださった。ありがとうございます!このピッチは、ピナクルの林立するリッジを登る。これは、ロープの流れが悪くなることを気をつけなければいけないピッチだな、と感じ、慎重にランニングを取っていく。なかなか大胆なムーブがでてくるが、ガバなので問題ない。すると、核心の小ハングが見えてくる。登攀中のパーティーも見える。聞くと、この先も順番待ちとのこと。やはり、焦らずゆっくり行こう。ビレイポイントが空いたところで、早見にビレイ解除を伝える。ぽつぽつと雨が降ってくる。

8P目(早見リード)
 いよいよ核心。早見、先をお譲りしてくれた方々を待たせるわけには行かない、と張り切って取り付く。11:00、登りだす。残地スリングあるが、使わない。腕がパンプしたのか、ブンブン振っている。おー、フリーみたいだなー、と高みの見物。若干渋ったようだが、無事、越えていった。「いぃでーす。」との合図で、私も登り出す。下部はリッジを利用して、早見のムーブとは異なる、自分のイメージした登り方で登る。小ハングも、フォローなので気楽に楽しみながら登らせてもらった。核心を当然フリーで登った早見だが、自分のクライミング能力の低下を改めて感じたようで、苦い表情を見せていた。まあ、最近俺たちフリーやってないもんなー。

9P目(鈴木リード)
 11:25、リード開始。トポの2P分をのんびりと登ると、先行パーティーが見えてくる。ナイフエッジに立ち、残地ハーケン1本と、クロモリ1本、軟鉄1本を打ち足し、支点を作る。いつの間にか、雨は止んでいた。早見のことをビレイしていたその時、青空が見えてくる。ふと、振り返ったとき、思わず息を呑む。さっきまで雲に隠れていた山々が、見渡せる。遠くには、夏の、雄大な白い雲と、青い空・・・。
私「すげぇ、スゲーぞ早見ぃー!!」
思わず叫ぶ。
早見「チンネいいねぇ〜。」
なかなか景色に感動しない早見(私の独断)も嬉しそうだ。
 他のパーティーからも、歓声が上がる。みんなが感動している。いつも、私にとって、景色はおまけのようなものだ。本当に感動する景色は、なかなか見ることはできない。山の頂上で雄大な風景を見ても、感動するとは限らない。何気ない道を歩いていて、ふと見上げた空に感動することもある。狙っても、見ることはできない。だからおまけだ。でもこの景色は、おまけにしても、飛び切りのおまけだ。登ってきた早見が、ちょこんと岩に腰を下ろす。ここぞとばかりに写真を撮るが、なかなか思うようには撮れない。
 その時、前のパーティーの方が写真を撮ってくれるという。あとで、メールで送ってくれるそうだ。なんだか、たまにはこういうのんびりしたクライミングも悪くないな、と感じた。前のパーティーが見えなくなるまで、雄大な景色を楽しんだ。

10P目(早見リード)
 リッジの右手斜面を、トラバースしていく。早見、ハーケンを何本か打って支点を作っていた。小癪にも、重ね打ちしているものもある。しっかり利いている。先ほどの、景色はもう、雲の中。

11P目(鈴木リード)
 ラストのピッチ。12:40頃、登り出す。12:55、登攀終了。チンネ左稜線。噂にたがわぬ好ルートだった。登攀時間、約4時間30分と遅いタイムだが、今回僕らは満足だ。タイムに関しては待ち時間もだいぶあるし、何より、楽しいクライミングだったから。

 終了点は、なかなか快適なので、おっちゃん達との会話を楽しみながら、のんびりとすごした。朝、剱沢から来たというと、大層驚いてくれた。

 13:30頃、下降を開始する。三ノ窓ノ頭とのコルより、落石を落とさぬよう慎重に下降し、途中で左手に少しトラバース。そのまま下降もできるが、落石が怖い。トラバースした地点から、残地の支点を利用し、慎重に懸垂下降するのが、一番安全だろう。本日、2度目の池ノ谷ガリー。中間部よりもやや上部に出る。慎重に下り、三ノ窓へ。最後は、ぐったりした面持ちでテントに到着する。9日目にして、私も早見も、チョット疲れた。明日は、初めての休養日だ。チンネも登ることができたし、嬉しい・・・。

 テントからは、今までと違う景色が見える。星空が、いつも以上に美しく見える。

8月9日(火)晴れ

三ノ窓4:50発〜池ノ谷乗越5:40着〜剱沢BC8:20着

 4:50、のんびりと準備をし、三ノ窓に別れを告げる。はるか朝焼けの向こうには、冬に目指す鹿島槍ヶ岳が、雄大に聳え立つ。登ってやる・・・と気合も入ったところで出発。5:40頃に池ノ谷乗越に到着。雪渓上部は、左手を巻いていく。来た時と違い、ほとんど巻くことができた。8;20頃、無事、剱沢BCに到着。須田たちが、のんびりと朝食をとっている。休める。今日は休養だぁ。

 こうして、1つの目標であった、チンネ左稜線登攀は終了した。最近、私と早見の息も相当あってきた。お互いが信頼しあい、足りない部分を補えている。今後、さらにうえのレベルを目指せることを強く感じる内容だった。その、残り時間が少ないことが、寂しい限りである。ところで、今まで、本ちゃんではあまり景色に恵まれなかった私達。壮大な景色の中、気持ちよく登ることができた今回は、早見の、「なんか、あんま面白くなかったっス。」発言も出ず、二人とも、チンネはいい!と言う意見で一致しましたとさ。 ・・・帰りの新宿駅で、ふと、船田に目をやる。はっとした。合宿前とは、目つき、顔つきが違った。

私「船田・・・、顔つきが違うな。」

笑顔で船田は答える。

船田「ありがとうございます!」

 人の成長を見ることができることは、素晴らしいことだと思う。ふと、隣の須田を見たとき、「でも、一番変わったのは須田だな。」と言おうとしたが、悪い冗談だと思いその言葉を飲み込んだ。

 いつも感じていた。山岳部は命懸けだと。私は、山に対する情熱に欠けた1年生だったが、それだけは、ひしひしと感じていた。山は怖い。1年生の時の冬合宿後、風呂に入りながら、大真面目に思った。こんなことをやって、4年間生きぬいてきた先輩達は凄いな、と。命懸けだから、皆、真剣になる。私は、先輩達の、その真剣さに引かれて入部した。文字どおりの真剣勝負。だから面白い。その中で、皆で目標を持ち、達成したい。その気持ちは、変わらない。


チンネ左稜線−長次郎谷上部より。


チンネ左稜線−5P目を登る早見。


チンネ左稜線−核心、小ハングを登攀中の早見。


9P目終了点。俺、写真撮り過ぎだな。


9P目終了点より三の窓のテントが・・・。


たまには、のんびり。


10P目を青空に向かってリード!


よっしゃ!チンネの頭。


朝焼けの三の窓。楽しい時間をありがとう。